過剰防衛~ふたつのDV反撃事件~

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まえがき

DV、それは夫婦間、恋人間で起こる精神的、肉体的、経済的なあらゆる分野における暴力の全てを指す。
1970年代にアメリカでDVの概念が作られ、その後平成13年にようやく日本でDV防止法が施行されたが、当時その認知件数は配偶者暴力相談支援センターに寄せられたものが約36,000件、警察が把握したものが約14,000件。
それは年々増加の一途をたどり、令和元年には警察への相談件数だけでも11万件を超えた。

これは、単にDVが増えた、ということではなく、DVの概念が広まり、それまではDVだと思われていなかったものがきちんとDVであると言われるようになったこともあるだろう。
たとえば、いまだにDV=暴力、だと思っている人は男女問わずいる。しかし、DVは「外出を制限する」「無計画な買い物をする」「無視する」「他人の前で恥をかかせる」「常識的な性交渉に応じない、または強要する」といったことまで多岐にわたる(分類詳細)。

そのDVから逃れるために、もし、相手を殺してしまったら。命の危険を感じて咄嗟にとった行動で相手が死亡してしまったら。

昭和と平成に起きたふたつの事件と、その結末である。

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🔓Love & Father~八街市・父娘強盗殺人放火事件~

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平成22年5月11日

男性はその日、火災発生を知らせる防災無線に耳をすませた。
場所によっては、消火活動をする必要もあるため、住所を聞き取ろうとして息をのんだ。
男性は急いで現場に駆け付けたが、その家はすでに2階から炎が噴き出し、手が付けられない状態となっていた。

その家は、男性が5年前に建築を請け負った家だった。

八街の放火

平成22年5月11日午後2時半ころ、千葉県八街市小谷流の民家が燃えていると、近所の住民から119番通報があった。
駆け付けた消防隊が火を消し止めたものの、木造二階建ての立派な家は見るも無残に焼け落ちた。

この家は、農業の中村行夫さん(当時76歳)と長男(46歳)、そして長男の娘ふたりの4人暮らしだった。
火災は平日の午後に起こっており、長男と娘二人はそれぞれ学校と職場へ行っており無事が確認された。行夫さんも、火災が起きた時いつも使用している軽四自動車が見当たらなかったことから、行夫さんも出かけていて無事なのでは、と思われたが、その後の現場検証で、1階の六畳間で遺体が発見された。

近所の人らは、「車がなかったからてっきりお孫さんを迎えに行っているのだとばかり思っていた」と話し、一家を襲った突然の不幸に同情を寄せた。

しかし、一つおかしな点があった。

住民らが言うように、普段行夫さんが使用していた軽四がなくなっていたのだ。
長男も使用しておらず、行夫さんが自宅で死亡している以上、行夫さん以外の誰かがその軽四を乗って出ていった、としか思えなかった。
警察では当然、事件を視野に入れて捜査したが、後日行われた司法解剖の結果、行夫さんの遺体には背中に刺し傷があったことが判明。さらに、胃の内容物から食後4時間ほどで死亡していること、そして、喉には微量のすすも認められたことから、刺されてすぐに火を放たれたとみられた。

警察は殺人事件と断定、目撃情報や、なくなった車の捜査を始めた。
まずもたらされたのは、行夫さん宅の近くの山道に放置されていた見慣れぬ自転車の存在だった。それは2台並べて置いてあり、最近とめられた、という感じだったという。
また、家の中では物色されたような跡もあり、さらには行夫さんの家族以外のなにものかが「食事」をした形跡があったという。
以上のことから、犯人が行夫さんを殺害後に室内を物色し、食事をして火を放ち、行夫さんの軽四を盗んで逃走した、と警察では見ていた。

そしてもうひとつ、重大なある事情がこの家には悩みの種として覆いかぶさっていたことも分かった。

行夫さんの孫娘の一人が、ストーカー被害に遭っていたのだ。

【有料部分 目次】
ストーカー
八街の父と娘
「愛に年齢は関係ないっ!」
父親の暴走
凶行
無罪主張の父
A子
少女たち

火遊びのはてに~広島・医師妻殺害死体遺棄事件~

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平成11812

「すみません、ちょっとお願いしてもいいですか?」

広島県福山市。通行人の男性は突然そう声をかけられた。
振り向くと、そこには大柄な体格の若い男の姿があり、謝礼を払うので銀行のATMから現金を引き出してきてほしい、というのだ。
男性は訝ったものの、男が示した謝礼は「10万円」だった。
男性がATMで教えられた暗証番号を打ち込むと、残高が309万円と表示された。その全額を降ろして男に渡すと、男は約束通り10万円を手渡してきた。

「変な人もいるもんだな」

男性はそう思っていたが、数日後、警察から事情を聞かれる羽目になる。
男性が金を引き出した口座の主の妻が、行方不明になっていたのだ。

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願いを叶えて~日田市・妻義母殺害事件~

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法廷にて

「一番苦しんだのは父だと思います。私は父を恨むどころか、『お父さんごめんね』という気持ちでいっぱいです」

大分地方裁判所の法廷には、女性のすすり泣く声が響いていた。その言葉に、被告人席の初老の男は、ただただ涙を流すだけだった。

男の罪は、妻と義母(妻の母)を殺害するという、非常に重大なものだったが、彼のために減刑を求める嘆願書が1300人分も集められていた。

男が犯した罪と、その背景とは。そこには、やりきれない事実が隠されていた。

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老いてなお~成人した子を殺さざるを得ない親~

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まえがき

令和元年6月1日、練馬区の住宅で76歳の父親が44歳の息子をメッタ刺しにして殺害するという事件が起こった。
これだけでも衝撃的すぎる事件だが、その父親が元農水事務次官であったこと、息子がSNSやオンラインゲームの世界である程度有名な人物であったことなどから、ネットを中心に連日取り上げられるようになった。

一方で、殺害された息子が長いこと問題を抱えていたことや、それを献身的に支え続けた両親の姿も浮かび上がってきた。

そんな中、逮捕された父親が息子殺害の動機として、「いつか息子が誰かに危害を加えるのではないか」という思いがあったと語ったことで、問題を抱えた子供を抱える年老いた親たちの切実な思いもクローズアップされることになる。

ただ、高齢の親が問題を抱える成人した子供をその手で殺すという事件は、なにもこの事件が初めてでもない。珍しくもない。
有名なところでいえば、平成8年に起きた湯島の金属バット息子殺害事件があるが、これ以外にも高齢の親が子供を殺害する事件はいつの時代にもあった。

今回は、過去に起きた老親による子殺しに焦点を当てたい。そこから見えてくるものは、はたしてあるのだろうか。 続きを読む 老いてなお~成人した子を殺さざるを得ない親~