最悪~福井・26歳男性刺殺事件~

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裸で逃げる女

福井署に一報が入ったのは、平成15年12月16日の午後7時半過ぎ。
通報があった福井市菅谷1丁目は川沿いの静かな住宅街で、その住宅街が騒然となっていた。

「裸の女の人が叫んでいる。何か追われているようだ。」

福井署員が現場に急行、あたりを捜索していると、冬の夜間だというのに玄関ドアが開きっぱなしになっている住宅を見つけた。
不審に思った署員が家の中を確認すると、そこには全裸の男性がメッタ刺しにされ息絶えている姿があった。

通報があった裸で追われる女と、それを追いかけていたという中年の男の姿はどこにもなかった。

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🔓母の名は、女~山形・村山市6歳男児殺害死体遺棄事件~

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拘置所にて

「私、今でも夢を見るの。男の人と連れ子と4人で仲良く暮らしていて。でも、男の人の顔はないの。」

女は拘置先の刑務所で、面会に来た知人にこう話した。
家族で楽しく幸せに暮らすことが夢だった。自分に子供がいるから、相手にも子供がいればいいな、女はそう思ってまさにその通りの男と巡り会った。

しかし家族になろうとしたひと月後、女は月灯りに照らされながらスギ林の中で我が子の墓穴を掘っていた

加藤翔くん(当時6歳)。母親とその同棲相手の男から凄惨な暴行を受け、死亡。母親の手によって、鬱蒼としたスギ林に埋められた。
最初に発見された遺体は、わずかに髪の毛が残った頭部だった。

事件概要

平成15年9月18日、山形県警村山署の捜査員は茨城県土浦市にいた。
この町に、捜索願が出されている女性がどうやら潜伏しているという情報を得て、勤務先とみられる風俗店に踏み込んだ。
捜査員を見た女性は一瞬怯んだように見えたが、やがて観念したのか捜査員の聴取に応じた。
捜査員らは、女性にどうしても聞かなければならないことがあった。この女性の、6歳になる息子の行方である。
息子には、投薬が必要な先天性の腎臓病があった。その息子の行方が、わからなくなっていたのだ。

「子供はどうしたの?」
捜査員に対し、当初は友達に預けている、と話した女性だったが、嘘をついてはいけないと捜査員に諭されると、
「死んじゃいました、山の中に埋めた。」
と答えた。
山に埋めた、と聞いた捜査員が思わず、「なんで!」と聞き返すと、女性は大声でこう言い返し、その場に泣き崩れた。
「だって!死んじゃったんだもん!!」

この日、山形県警村山署は、秋田県由利町(現・由利本荘市)出身で風俗店従業員の加藤有美(当時25歳)を、保護責任者遺棄容疑で逮捕した。
有美はその年の6月上旬、長男の翔くんを山形県内の山中に置き去りにした容疑が持たれていた。
有美の供述には不確かな部分もあり、翔くんが死んだから遺棄したのか、それとも置き去りにしただけなのかもよくわかっていなかった。
有美の話によれば、衰弱した翔くんを離婚した前夫に託そうと決め秋田県内へ向かっていたが、その途中で翔くんを置き去りにした、と話す一方で、死亡したため山形県内の山林に埋めたとも話していたのだ。

9月19日以降、供述をもとに村山市本飯田にある通称「勝福山」の林道で警察犬も投入して捜索するも、手掛かりになるものさえ発見できなかった。
警察では、有美が前夫に翔くんを預けるつもりだったと言いながら、前夫とは2年間音信不通だったことや、翔くんを埋めたスコップを購入した場所や処分した場所を覚えていない点を不審に思い、慎重に捜査を進めていたところ、10月に入って供述が嘘だったことが判明。
実際には、当時住んでいた村山市内の交際男性のアパートで翔くんが死亡していたことが分かった。
その後、証拠隠滅を図るために有美が翔くんを山に埋めていたのだ。

有美は翔くんを日常的にせっかんしていたといい、その延長上で翔くんは死亡したとみられた。
有美自身も、警察に対し「発育の遅れに苛立ち、せっかんしていた」とも供述していた。
また、当時住んでいたアパートの主で、有美の交際相手だった男性も、「翔くんは友達のところにいると聞いていた」と話し、さらに、腎臓病のため水分を多くとる必要があったと聞いていたのに、有美がおねしょを嫌がって水分を与えていなかったため、その男性が食事や水分を与えていたと話した。

有美は「翔くんの口をふさいで殺害した」とも話していたことから、警察では傷害容疑での再逮捕も視野に入れ、いまだ発見に至らない翔くんを捜していた。

10月8日。逮捕から20日が過ぎたこの日、捜索していた場所から子供のものと思われる頭部が発見された。
遺体は林道から100mほど分け入ったところの地中1mに埋められていた。膝を両手で抱え込むようにし、赤いシャツに黒のズボンで、傍には防臭剤が置かれていたという。

有美と翔くんの様子を知る住民は、こう話していた。
「暴力などは見たことはないが、しつけは厳しかった。きつい調子で叱りつけることはあったし、翔くんがじっと有美さんの顔色を窺っている感じもありました。母子家庭だからと力んでしまったのでしょうか・・・」
しかし一方で、翔くんが通っていた保育園の関係者らは一様に驚きを隠せないでいた。
有美は翔くんの体を思い、塩分を控えめにしなければならない翔くんの食事のメニューを工夫し、翔くんが熱を出したというと飛んで迎えに来るような母親だったという。
勤め先にも翔くんをよく連れてきており、実家との関係も良好で、秋田県内の有美の実家には、翔くんのおもちゃが庭先にも置いてあった。

しかし有美は、秋田で暮らしていたころからせっかんを繰り返していたと供述。一貫して自分が虐待を加え、結果死なせて埋めたと話していた。

ところがこの10月8日になって、事態は急変した。
警察が任意で事情を聞いていた、有美の交際相手の男性が自殺を図ったのだ。幸い、命に別状はなかったが、男性は救急搬送された。
実は有美の供述から、男性の関与が疑われていたのだ。
有美は一貫して自分一人が行ったという趣旨の供述をしていたが、翔くんが死亡した後、1~2日経ってから遺棄したと話していた。
とすれば、その間翔くんの遺体はどこにあったのか?当時有美は村山市内の交際相手の男性が借りていたアパートで暮らしており、男性もその期間その部屋にいたことが分かっていた。
何も知らないと話していた男性の関与について調べ始めた矢先の自殺未遂。

結果から言うと、男はすべて知っていた。というより、この男こそが、翔くんを死亡させた張本人であった。

【有料部分 目次】

母子のそれまで
変わり果てた「かー」
我が子の墓穴
葛藤
男との約束
「なんで減らしたんですか!!」
「母として仇をとってやりたい」
初の懲役10年以上
昨日まで一緒に泥棒してたんでしょう?
最期の言葉

ここからは有料記事です

🔓だってあの子が悪いのに~鹿嶋市・女性リンチ生き埋め事件~

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平成13年6月9日

茨城県鹿嶋市。
北浦に面した県道18号線から東に1キロほど離れた場所で野良犬が数頭、群がっていた。

「なんであんなに犬がいるんだろう」

田んぼのわきのあぜ道で農作業をしていた男性(63歳)は、野良犬らの動きが気になった。なにか、動物の死骸でもあるのだろうか。
犬たちを追いやった男性が、犬たちが群がっていた地面を探ってみると、そこにはなにやら白いものが見えていた。
男性は知人を呼びに行き、その知人とともにもう一度その白いものを確認して驚愕する。
それは、人の頭蓋骨だった。 続きを読む 🔓だってあの子が悪いのに~鹿嶋市・女性リンチ生き埋め事件~

17歳の”漢気”~大牟田・男性殺害事件①~

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平成13年4月13日

福岡県大牟田市。
そのとある住宅で、一人黙々と身支度を整える少年の姿があった。
真新しい作業着に身を包み、足元は地下足袋。その腹には、さらし替わりの白いシーツが巻き付けられていた。
実家から持ち出したのは、叔父の形見の切り出しナイフ。

じっと見守る女に、少年はこう語りかけた。
「待っとかんや」
頷く女に微笑んで、少年は討つべき相手の元へ駆け出した。 続きを読む 17歳の”漢気”~大牟田・男性殺害事件①~

17歳の”漢気”~大牟田・男性殺害事件②~

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初の逆送

少年は殺人と銃刀法違反、住居侵入の罪で福岡家庭裁判所久留米支部に送られていたが、福岡地検久留米支部は、平成1351日、少年の審判への検察官立ち合いを申し立てた。
これは、それまでの少年審判は家庭裁判所で行われ、そこには検察官の立ち合いがなく、「事実認定が甘い」といった指摘があった。
そのため、検察官の申し立てが認められれば、家裁での審判に検察官が立ち会い、刑事い処分相当と判断されれば検察庁へ送られることが認められた。
またその年4月の法改正で、16歳以上の少年が殺人や強盗などの重大犯罪をやらかした場合、原則検察官送致、いわゆる逆送致とし、これを受けて、少年としては全国で初めて(この時点において。のちに水戸家裁の決定が先に行われたため、実際には全国2例目)成人同様刑事裁判を受けることになった。

そして、6週間の観護措置を経て、612日、少年は福岡地検久留米支部に逆送、620日には殺人罪などの罪で起訴された。

911日の初公判では、少年は殺意こそ認めたものの、丈志さん方を訪れたことは殺害目的ではなく、あくまでストーカー行為などをやめさせるための話し合いだったと主張した。
しかし現実には、少年は丈志さん方を訪れ、父親が不在であることを確認したのちに侵入、丈志さんに
「誰やお前、佳代子の旦那か」
と言われもみ合いとなり、そのまま話し合いもなく持っていた切り出しナイフで丈志さんの顔面、頭部、腹部、胸部、背中をメッタ刺しにしていた。
弁護人は、「丈志さん方へ赴いた際は、『示談になればいい、念書でも書いてもらえば』という思いだったものが、もみ合っている最中に丈志さんから『お前も佳代子も娘も殺す!お前たちの不幸が俺の幸せじゃ!』と罵られたことで最終的に殺そうと思った」と主張したが、裁判所はこれを認めなかった。

さらに裁判所は、事前に少年が腹にさらし替わりのシーツを巻き、ヘルメットや軍手、地下足袋で身を固めていることも、単なる話し合いに必要な服装ではないこと、もはやそれは、命のやり取りを想定したものであるとし、少年のあらかじめの殺意を認定した。

少年にはその後、懲役5年から10年の不定期刑が言い渡され、いったんは控訴したようだったが、その後確定した。

佳代子

一方の佳代子はというと、少年が逮捕されて2週間後に、殺人ほう助の疑いで逮捕された。
おそらく、佳代子にとっては「こんなはずではなかった」展開だったのだろう。佳代子は少年から「待っとかんや」と言われた際、明らかに自身の逮捕など露ほども想定していないとわかる言葉を残している。

佳代子は、この時妊娠していたのだ。
それは少年の子だという。そして、事件前に少年にもそれを伝えていたのだ。
冒頭にあるように、少年が丈志さん襲撃に向かう直前、「待っとかんや」と言ったのに対し、佳代子の返答は「子供産んで待っとく」だった。

しかし予想に反して、佳代子も逮捕となり、結果、殺人罪で起訴された。

佳代子は事件当日、少年が凶器を持参のうえ、丈志さんを襲撃することを知りながらその準備を手伝い、さらには丈志さん方へ車で少年を送り届けているのだ。
さらに、丈志さんを殺害したのちも少年を車に乗せ、血で汚れた作業着や軍手、凶器のナイフを捨てるために車で走行している。さらに、丈志さん宅の間取りを教えたり、丈志さんの予定や在宅確認なども行っていた。
検察は、殺人罪の共同正犯を適用した。

ところが、佳代子は全面否認。少年に対し、殺害を仕向けたり、示し合わせたりしていないとして無罪を主張する。
これはこのサイトでも取り上げた境町就寝中男性殺害事件と似た展開ではあるが、あちらはそもそも逮捕すらされていない。
佳代子の場合は、極道の妻よろしくカチコミ前の男の身支度を手伝い、切り火で送り出しているわけで、殺人罪は難しくてもほう助は免れないと素人目でも思う。

判決は、殺人罪で懲役5年。控訴したという報道が出ないので、おそらく確定したのだろう(追記:控訴したものの棄却、その後確定)

少年が不定期刑確定となったのちも、佳代子は自身の無罪を訴え続けていた。もちろん、少年はそう願ったろうけれども、私はこのあたりで佳代子の本性が見えた気がしていた。

「二度目はなかぜ」

若い男性が年上の女性にハマる、というのはありがち話なのだが、この事件の場合、佳代子の手練手管というより、少年のぶっちぎりの漢気というか、もっと言えば九州の、この大牟田の風土というか、そういうものが大いに盛り上げたのではなかろうかと思わずにいられない。

少年は特に親がやくざだとか、自身も身近にチャカがあるとかそんな荒くれた修羅の国の日常を送っていたわけではない。
前科もなく、一度窃盗で捕まったものの、それ自体不起訴処分になっている。かわいいものだ。

しかし、そんな少年の血にも、どうやら荒ぶる魂があったようだ。

少年は佳代子のおなかに自分の子供の命が宿っていることを聞き、佳代子と佳代子の娘、そして自分の子供の4人での生活を夢見たという。
しかし、そこには丈志さんの存在がどうしても消せずにいた。
警察に相談もした。しかし、そこはまだ少年の至らなさで、それまで佳代子が相談していた荒尾署ではなく、大牟田署に相談してしまい、継続の事案だということが伝わらなかった。
そんな中で、取り乱した佳代子が口走った、「私が我慢すれば」という言葉。

少年は佳代子にこう言い残した。

「俺がいっぺんだけお前のためにしてやる。二度目はなかぜ。一番わかってほしいのは、これだけお前を思っているということ。お前が一番悩んでいることを形に残して解決する。今までどの男もしてやり切らんやったことをする。」

「こげんかこと女のためにする男がいることを、よう覚えとかんか」

考えてほしい、自分が17歳の頃、こんなこと言えたか?
私は世界で最強の口説き文句は、四代目山口組組長・竹中正久氏が言った、「殺したいやつおったら殺したるで」だと思っている。

少年のそれは、まさにこれを地でいくものだ。
少年は、傲慢で高飛車、虚勢的な強がり、大言壮語、相手の気持ちに無頓着で共感性や思いやりの気持ちが薄く自己顕示欲が強いなどなど、散々な言われ方を裁判でしている。
しかし、世の17歳のほとんどはすべてではないにしろ、こんなもんじゃないのか。
もっと言えば、丈志さんが佳代子を追い込んでいたのも事実であるし、佳代子や少年が警察に相談していたのも事実だ。

結果を考えれば、少年を擁護できるものではないが、佳代子に出会わなければ彼の人生はまた違っていたのかなとは思う。
正直、少年の覚悟の言葉に私はしびれた。もしも母親の立場だったらば、よう言うた、と思うかもしれん。
佳代子はどうだっただろうか。

佳代子の裁判が途中中断していることを考えると、もしかしたら佳代子はそのまま出産しているのかもしれない。
お互いが出所した暁には、今度こそ一緒になったのだろうか。

平成23年、佳代子は破産宣告を受けているが、この時点での苗字は事件当時のままだ。
それまでに二度ほど苗字が変わっているが、出所後再婚したのかはわからない。
少年も、おそらく今は社会復帰し、どこかで暮らしているのだろう。

二度目はなかぜ。

少年と佳代子の、二度目の人生は続いたのだろうか。

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参考文献
判決文

朝日新聞社 平成13年4月14日、16日、17日、5月1日、6日、22日、26日、6月12日、21日、8月28日、平成14年5月9日、9月26日西部朝刊
NHKニュース 平成13年5月5日
中日新聞社 平成13年6月2日、9月11日朝刊