悲しみのある風景~自死・無理心中からみえるもの①~

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まえがき

自分が暮らしている街が、実は自ら命を絶つ人を量産しているとしたらどう思うだろうか。
自分にとってはなんてことのない、見慣れた風景、人、言葉、産業、ならわし、日々の営み。
しかしそれらがある一定の人、条件によっては、命を絶つ「後押し」をしている可能性があるとしたら。

 

矛盾の街


表向きは温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、日本国内でもストレスの少ない街、旅行してみたい街などにも選ばれる愛媛県松山市。
温泉街と飲み屋街と風俗街がさほど離れてない場所に混在する、日本でも独特の観光地でもあり、世のビジネスマンにも人気はある程度高いという。

私が暮らすその街は、平成二九年度に主要都市別、人口に対する割合で見た自殺者数の数が県庁所在地別でみると全国位となっている。
これは平成三〇二九日に文春オンラインにて、渋井哲也氏が発表したものであるが、そこに長年住むものとして度肝を抜かれた。

もちろんこれは、東京や大阪の場合、区ごとの集計になるため大阪市西成区がトップとなる。
しかし、都道府県別での自殺死亡率を見た時、大都市で人口も多く、そして自殺者も多い東京や大阪は一〇万人あたりの率で見るとぐっと下位になる。代わりに上位を占めるのが、秋田、青森、岩手、新潟などの東北、北陸勢である。
語弊があるかもしれないが、東北や北陸といった共通するもののある地域の中に、ぽんと全く共通点が見いだせない愛媛県が入っているのが「異様」なのだ。

東北は、賃金などのほかに、気候なども人の精神状態に関係すると言われる。日照時間の問題や厳しい冬など、どこかこう他の地域に比べると暮らしていくのに覚悟がいるというか、芯が強くなければやっていけないといった私個人の偏見に満ち満ちた印象があるのも事実である。
しかしではなぜそこに愛媛が??ご存じの通り、愛媛は瀬戸内海に面した温暖な気候、山と海に美味しい食べ物、適度に田舎、賃金は低いがその分物価も低く、若い人には面白みが欠けるとはいえ、無理をせずともそこそこの生活は送れるのんびりとした街である。
四国八十八か所を擁し、外国人を含めてお遍路さんが年中歩いているため、お接待の心も根付いている。最近ではしまなみ海道を走るサイクリストらの姿も多く、道後温泉をはじめ観光にも力を入れている。
農村部でも、高齢化が進む農家を助けるために、毎年繁忙期には県内外からアルバイトが押し寄せるし、環境の良さ、土地や家賃の安さに惹かれて移住してくる人も少なくない。
人柄は各地域で温度差はあるものの、おっとりとした方言が象徴するように、そんなに攻撃的な県民性ではない。むしろ、おとなしく人前に出ることを嫌い、どちらかというと控えめな県民性である。

そんな愛媛県は、平成二九年、三〇年度のストレスオフ県ランキングでは連覇を果たしている。
社会的な環境や経済的なこと、子育てのしやすさ、地域の人間関係などが全国位を獲得しており、自殺の主な要因となる貧困や人間関係の悩みとはおよそ無縁に思える。

しかし一方で、同じ年に行われた「住みたい街ランキング」には、なんと愛媛県は一切入っていないのだ。
中四国ブロックで見ても、たとえば高知は高知市が「安全な街」として評価され、四万十市は街の魅力そのものが評価されている。
お隣の香川も、丸亀市やさぬき市、瀬戸内周辺では山口県下松市や岡山県倉敷市、広島県大竹市などほとんどがランクインしている。そんな中で、愛媛は全く入っていないのだ。ストレスオフ連覇なのに(ちなみに徳島も入ってないけどまぁこれはなんとなくわかる気がするので割愛)。
二〇一八
年でやっと東温市がランクインしてきたが、それでも松山市は出てこない。
二〇一九
年では評価のポイントが変わったのか、ランキングも愛媛からは新居浜市、西条市がランクインするも、評価のポイントは水道料金の安さというどうでもいいものだ。

全国的に見れば、自殺者の人数だけで見れば松山市の自殺率の高さはわからない。ゆえに、見過ごされてきた何かがあるように思う。
個人的偏見も多く含まれると思うが、私なりに私の住む街を考え直してみたい。
同時に、他県においても突出した自死の背景を考えてみたいと思う。
(最初に言っとくけど、愛媛に生まれてよかったと思っとるし、松山から出る気ないけんね!I LOVE 松山!!!)

穏やかな県民性と「翳」

愛媛県は東予、南予、中予と三つに分類される。そのつは、同じ愛媛県でも言葉や人柄にも違いを見せる。
松山市を中心とする中予は、観光がメインである一方、伊予柑、紅まどんななどの柑橘類、キウイフルーツなどの栽培に従事する人も多く、また、帝人や東レ、井関農機や三浦工業の工場を有しており工業もそれなりに多い地域である。人はみなのんびりとして、言葉も柔らかい。
今治市、新居浜市、西条市、四国中央市を抱える東予は、古くから商業、工業で栄えた地域であり、地場産業であるタオル、製紙、造船、多くの住友系の工場、ティッシュ王子こと井川氏で有名な大王製紙グループがあるため、職にあぶれることがない。そのため、新居浜市では愛媛県では破格の高値となる一一〇〇円の時給をつけても、すき家にバイトが集まらないといったこともあった。
人は若干言葉がキツイとも言われるが、ビジネスライクな言動をする人が多い印象だ。祭りが盛んな地域でもあり、女性も男勝りなタイプが多い。
南予は宇和島市、大洲市といった市部のほかに郡部も多く、第一次産業に従事する人が多い地域だ。高齢化も進み、人口も減少しつつあるが、それでも内子町など観光に力を入れる地域もあり、各自村おこし、町おこしなどでそれなりに活気はある。南予出身者は美人が多いとも一部でいわれるが、なんとなく目がぱっちりしていて団子鼻、二階堂ふみみたいなタイプが多い気がする。沖縄顔というか。愛媛県内では一番「情」で動く地域でもある。一方で、西予市において史上初の共産党系議員が誕生するなど、最近では相次ぐ災害による不安も手伝ってプロ市民的な人々の暗躍も気にかかる。



物価は安定して安く、豊富な農、海産物、畜産物に加え、流通もさほど不便ではないためありとあらゆるものが手軽に手に入る。
土地建物に関しても、松山市部の平均的家賃はファミリー向け物件がおよそ四万円から万円で、新築建売や分譲マンションも二〇〇〇万円台からある。
公共の交通機関については、いささか不便さは否めないが、もともと車社会であり、一家に一台どころか一人一台は当たり前で、高校生は月になると多くが免許を取得する。

犯罪等も全国的に見れば件数は少なく、殺人などの重大犯罪は年に件ほど(令和年)で、いまだに家に鍵をかけない人も少なくない。
夜中に中学生が一人夜道を歩いていても、はっきり言ってそんなに危険ではない。
道を尋ねればおそらく誰もが親切に教えてくれるし、財布を落としたと言えばもしかすると帰りの電車賃をめぐんでもくれるかもしれないし、人によったら泊って行けとまで言うかもしれない。
愛媛に住む人は往々にして「親切」である。それは、温暖な気候と安定して安い物価、家賃、昔ながらの付き合いが残る地域でのお互い様の精神、そういったものがDNAに組み込まれているのかもしれない。

ではなぜ、そんな親切を絵にかいたような県民性とともに、翳と言わざるを得ない部分も持ち合わせている。

何度も言うが、愛媛県民は親切である。一方で、目立つことを嫌い、恥ずかしがりやな面も併せ持つ。
政治の世界のおいても、同じ四国のほかの三県をみると大平正芳(香川)、三木武夫(徳島)、高知はいろいろあって総理大臣は一人にとどまるも、言わずと知れた幕末から政治の世界での剛の者を輩出した県であり、力のある政治家がいる
瀬戸内を見てみれば、山口県を筆頭に広島、岡山、福岡などいずれも著名な政治家が数多くいるが、愛媛に関しては、せいぜい兄者こと村上誠一郎氏くらいか。
(ちなみに東京都知事選に立候補している宇都宮健児氏は生まれが愛媛県であるがちょっとしかいなかったのでもはや愛媛とのゆかりはなかったも同然とみなされている。)

この、自己主張をしない、控えめ、保守的といった県民性は、自分自身のみならず他人へもむけられる。
目立つ人、自己主張の激しい人、個性的な人をはっきりいって「嫌う」のだ。
そのため、よそから移住してくる人にとっては、必ずしも住みよい場所とは言えないのも事実だ。
移住と言っても、親せきや親兄弟がいるなら別で、そんなケースは大歓迎される。しかし、なんの伝手もなく環境の良さに、理想の田舎暮らしに惹かれ、人生の楽園を目指して移住した人の中には、痛い目を見ている人も少なからずいる。

愛媛県民は親切である。しかしそれは、明らかに困っている通りすがりの人、または自分たちにしっぽを振り、自らが土地に染まる努力を惜しまない人間にのみであって、自分らしく(それは自分勝手に置き換えられる)、などと腑抜けたことを言ってナチュラルな田舎暮らしを夢見ている人には、時に辛辣かつ陰湿な対応が待ち受けている。新参者は新参者らしく振舞わなければならないのだ。

新規の事業がなかなかうまくいかないのも特徴的だ。
愛媛県民は「情報を得る」ことに非常にこだわる県民と言われるが、それは田舎ゆえの都会へのあこがれや、流行りに乗っかりたい、という思いが強いためだろう。
しかし悲しいことに情報を取捨選択する能力には長けていないため、間違った情報に踊らされることもしばしばある。また、流行りに飛びつきあっという間に飽きる、これも特徴的な面と言える。
松山市には問屋町バルという名のひろめ市場のパクリがあるが、人見知りな県民性と相席への拒絶反応、目玉商品のなさに加え立地の悪さで全然はやらない。うまいものばかりに加え高知の豪快さ、物怖じしなさ、酒飲みは全員歓迎の精神がこれっぽっちもないのだから、県外から来る人など皆無だ。ちなみに私も近所だが未だ行ったことはない。

このように、他県で成功、もしくは都会ではやっているものが愛媛にやってくるのは周回遅れどころかもっと後のこともあり、しかも飽きられやすいということで、せっかく新規事業やお店ができても長続きしない。
流行りに乗っかりたい割に、「・・・たいしたことないな(笑)」というような、そんなことを言う人が多いのも一つの特徴だ。とにかく恥ずかしがり屋のわりに下に見られたくないのだ。このくだらないプライドの高さは四国一だと思う。

以前、マツコ・デラックスと村上信五の「月曜から夜ふかし」で、夏目漱石について愛媛県民に印象を尋ねた回があった。最初は愛媛ゆかりの文豪と褒めちぎっていた老婦人に、実は夏目漱石は「坊ちゃん」の中で松山をこきおろしているという事実を告げると、途端に老婦人は真顔になり、夏目漱石に悪態をついたのだ。
笑い話だが、私は怖かった。まさに、さっきまで褒めていた人をこき下ろす、こういう場面を今までにいやというほど見てきていたからだ。ていうか、愛媛県民で坊ちゃんをしっかり読んでいる人は少ない。
だから、愛媛県民が他人をほめるとき、私は話四分の一くらいで聞いている。そして私もまた、笑顔でその話に相槌を打ちながら、心の中では「心にもないことを(笑)」と嗤う愛媛県民なのである。

「嘘」~狭山市・二女児殺害事件①~

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平成13年11月16日深夜

「助けて!!子供が中にいるの!!!」

狭山市広瀬1丁目の河川敷で、車らしきものが炎上しているのを近所の住民らが発見。
気付いた住民らが消火器を持って駆け付けてみると、その傍らに全身ずぶ濡れの女性が呆然と立ち尽くしていた。
通報で駆け付けた消防により、車の火は消し止められたものの、車内の助手席と後部座席から小さな遺体が発見された。

続きを読む 「嘘」~狭山市・二女児殺害事件①~

「嘘」~狭山市・二女児殺害事件②~

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その日

11月16日、その日は長女の学校での役員会が予定されていた。
ここしばらく、家事もままならないほど寝込んでいた里香だったが、抗うつ剤や安定剤などを服用して役員会に出た。
しかしこの日、体を無理やりにでも動かしたことで里香は、いっそ今日、すべてを終わらせたらいいのではないかと思ってしまう。

里香の頭の中は今日死ぬことでいっぱいになってしまった。

玲奈ちゃんが友達の家から帰宅し、里香は沙奈ちゃんを保育園に迎えに行くと、少し早めの夕食を娘たちに食べさせた。
ママの手料理を喜んだ玲奈ちゃんだったが、里香は玲奈ちゃんにこう話した。
「今日は、パトロールの日だから夜一緒に車で出かけようね」
おそらく玲奈ちゃんは喜んだだろう。ふさぎ込みがちな母親が、少しでも元気な様子を見れば、子供はうれしいに違いない。
そんな玲奈ちゃんと沙奈ちゃんが食後のコーラを飲んでいる間、里香はせっせと片づけをしていた。
その手には、家の権利証や預金通帳。
子供たちが飲んでいる飲み物には、すでにすりつぶした睡眠薬が入れられていた。
自分用の睡眠薬と水筒を準備していると、電話が鳴った。友人からだった。ほんの少し話をして、里香は子供たちを車に乗せた。

とはいっても、どうやって死ぬかは決めていなかった。
ふと、以前家族で出かけた入間川河川敷を思い出した。
「そうだ、車で川に飛び込めばいい」
午後8時、里香は入間川に到着、しかしおぼれ死ぬには水深が足りないように思えた。
うまく死ねずに途中で子供たちが目を覚ましては苦しませてしまう……
里香は思案しながら、ふとバッグの中のたばこに目が留まった。

助手席では玲奈ちゃんがすやすやと眠っている。里香は睡眠薬を飲むと、後部座席の沙奈ちゃんの傍らで目を瞑ったのだった。

懲役7年

里香は、元来周囲の目が気になり、一つの事柄をいつまでもくよくよ思い悩むという性格であったこと、そしてそれは執着といってよいほどだった。
里香はその時その時では、うつの状態が回復傾向にみえることはあっても、常に沙奈ちゃんの将来を思い悩んでいた。
沙奈ちゃんの将来に関する事柄が起きていないときにはそうでもないが、たとえば年度替わりや小学校入学など沙奈ちゃんの進路にかかわる事柄が迫ってくると、また悩みが始まるといった具合に、沙奈ちゃんのことが「執着」そのものであった。

3人の精神鑑定医による精神鑑定では、二人の医師が事件当時の里香は心神耗弱が認められ、完全責任能力があったかどうかは疑わしいとしたが、一人の医師は、心神耗弱の可能性はあるものの、事理を弁識して行動する能力は失っていないと鑑定した。

里香は、実父母との関係性を幼いころから悩んでいたという。詳細は明らかではないが、特に実母との関係においては、心に葛藤を抱いていた。
それは時に、手のしびれや頭痛となって表れたという。
また、献身的に家族を支えていたという夫との関係性にも、里香は人知れず悩みを抱えていた。
そんな状態でありながら、里香自身、壁にぶち当たった時に内省する能力が乏しく、不満を感じていても具体的な解決策を見出せないという特徴的な性格を持ち合わせていた。

鑑定医の一人は、そういった内因性のうつ病を発症していたのであり、事件当時は責任能力が失われていたと鑑定したが、残る二人の医師は、内因性ではなく神経性、もしくは反応性うつであるとし、元来の性格が引き起こしたというよりも、執着し続けた沙奈ちゃんの障害、ひいては将来への悲観がうつを引き起こしたものであり、犯行当日も行動に合理性が認められると認定した。
里香は犯行当時の記憶(どうやって、何を使って放火したか)が欠けていたが、里香が意図して放火したことは明らかであり、その動機も理解可能であるとした。
また、放課後、駆け付けてきた男性らに車内に子供がいることを告げており、事の重大性も十分認識できていたと判断。
よって、里香には犯行当時、完全に事理を弁識できない状況ではなかったとされた。

一方で、完全責任能力があったか否かについては、強い自殺念慮に支配されていたことや、いずれの鑑定でもその程度は重症で、心神耗弱状態を完全に否定するものではない、といった鑑定がなされていたことから、心神耗弱の状態は認められた。

判決では、里香の行為を自分勝手極まると厳しく非難したが、それまでの里香の母親としての心痛、自分を責め続けたことへの言及もあった。
母親として、娘にできる限りのことをしてきた。教育も、療育も、経済的にも時間的にも里香は自分のすべてを沙奈ちゃんに費やしたと言ってもいいだろう。
しかし、判決は懲役7年。これを重いと見るか軽いとみるかは判断が分かれるだろうが、放火(一つの行為)によって二人が死亡したが、長女玲奈ちゃんはいわば道連れであり、犯情の面で考えるとより重いため、玲奈ちゃん殺害について処断されたものだ(観念的競合)。
そして、心神耗弱が認められたためにさらに減刑となった。
里香はおそらく控訴せずに判決を受け入れたと思われる(情報なし)。

確かに里香は一生懸命沙奈ちゃんを支え、玲奈ちゃん沙奈ちゃんの良き母親であったと思う。
それが、沙奈ちゃんが病にかかり、その後の発育に影響が残るとわかった時の母親としての心中を察するとこればっかりは同情を禁じ得ないし、里香が自分を責め、いっそ死んでしまいたいと思うのは十分理解できる。
娘を、孫を失った里香の夫や祖母(里香の実母、夫の実母)らは、里香の犯した罪に衝撃を受けながらも、里香を今後も支えていくと話した。

しかし、里香はあの夜、嘘をついていた。

里香は子供たちに睡眠薬を飲ませた。それは、苦しませたくないというせめてもの母心のはずだった。
里香自身も睡眠薬を飲み、そのまま3人とも目覚めることはない、はずだった。

結果から言うと、里香は目を覚まし、熱さに耐えきれず車外へと這い出した。いや、目を覚ましたというよりも、起こされたのだ、沙奈ちゃんに。
車内で最初に目を覚ましたのは、妹の沙奈ちゃんだった。煙と熱さに恐怖を感じ、沙奈ちゃんは必死で傍らで眠る母を起こしたのだ。
その後、里香はどうしたか。
改めて言うが、里香は「心中」しようとしていたはずだ。心中を企てた人間だけが死にきれないという結末は掃いて捨てるほどあるが、里香の場合、我に返る瞬間があったのだ。
沙奈ちゃんが里香を起こした時点で、沙奈ちゃんは「死にたくなかった」ことがだれの目にも明らかだ。しかも里香は、消火活動をしている(といっても、どうにかなるレベルではもはやなかったようだが)。
しかし火は消せず、里香は自分だけ車外へと逃げた。炎に包まれようとする沙奈ちゃんと玲奈ちゃんを車から出すこともせずに、だ。
助手席にいた玲奈ちゃんはもしかするとこの時点ですでに死亡していたのかもしれない、しかし、後部座席のすぐ隣にいた沙奈ちゃんを「車外に出さなかった」のはなぜなのか。

さらに里香の言動は続く。
駆け付けた消防隊に、里香はこう話した。

「次女が(車内で)ライターで遊んでいた。次女は何をするかわからない子で・・・。ライターで座布団に火をつけたんだと思います。後部座席には紙も散らばってましたから」

里香は、沙奈ちゃんのせいにしたのだ。玲奈ちゃんの死も、沙奈ちゃんのせいにしたのだ。この心理は何なのだろう。
無理心中で自分だけ死にきれなかった人間は山ほどいるが、本気で死のうとしていた人間で人のせいにした人を聞いたことがない。
もちろん、里香は死のうとしていたと思う。けれど、最後の最後に「保身」に走ったのはどうやっても理解できない。ましてや、愛してやまなかったはずの娘のせいにする、これはどういうことなんだろうか。

里香のこのとっさの言葉に、すべてが表れているように思えてならない。
私のせいでかわいそうな娘。私が悪い、普通の小学校にも行けそうにない、かわいそうな娘…

里香が本当にかわいそうに思ったのは、里香自身だったのではないか。

娘のせいでかわいそうな私。娘が悪い、普通の小学校に行けない娘を持って、かわいそうな私…。

 

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参考文献
判決文

不可解な愛の流刑地~池田市・自衛官心中事件~

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平成18年8月15日

「主文。被告人を懲役6年6月に処する。」

この日、大阪地裁である事件の判決が言い渡された。
検察側の求刑は殺人罪での懲役15年だったが、言い渡された判決はそれを大幅に下回る、懲役6年6月というものだった。

判決を言い渡されたのは、元自衛官の藤田盛司(当時42歳)で、被害者は当時不倫関係にあったという同じ自衛官で元部下の女性だった。

事件概要

平成18年2月20日午前7時55分。
大阪府池田市住吉2丁目のラブホテル従業員から、宿泊客の様子がおかしいと110番通報が入った。
前日から宿泊していた3階の部屋にの客から、「連れの女性を殺したから警察を呼んでほしい」と言われたのだという。

通報を受けて池田署員が駆け付けたところ、312号室のベッドの上で若い女性があおむけに倒れていた。
傍らには、通報を頼んだと思われる中年男性の姿もあった。
ふたりとも手首に深くはないものの、切りつけたような痕があったという。

池田署は、現場の状況と男の供述から、この男が女性を殺害したとみて殺人の現行犯で逮捕した。

男は、横須賀市の陸自通信学校勤務の陸曹長、藤田盛司。殺害されたのは、兵庫県小野市の陸上自衛隊青野原駐屯地所属の陸士長、尾ケ井有美さん(当時22歳)だった。
尾ケ井さんは17日の夕方から20日の朝まで休暇届を出しており、来る3月の末には任期満了で除隊予定でもあった。

逮捕された藤田は、調べに対し、「不倫がばれ、二人で死のうと思った。陸士長が死にきれないようだったので、ネクタイで首を絞めて殺した」「殺してほしいと頼まれた」と話していた。
藤田は前年の8月まで、尾ケ井さんと同じ青野原駐屯地で勤務しており、二人の交際が発覚したことで横須賀へ「飛ばされて」いたのだという。
それでも別れきれなかったふたりは、この日とうとう、最悪の結末を選んでしまった。

報道では、藤田の供述もあってか、当初より心中という形で報道された。

しかし、検察は取り調べの結果、藤田を殺人罪で起訴したのだ。

ふたりのそれまで


藤田は高校を卒業したのち陸上自衛隊に入隊、平成15年から青野原駐屯地に所属。
既婚者であり、青野原駐屯のある小野市に隣接する加西市で、妻子とともに暮らしていた。

一方の尾ケ井さんは、小学生の頃に両親が離婚、以降、姉とともに母親に育てられた。
女性ながら陸上自衛隊に勤務していたことを考えても、親思いの実直な女性だったと思われる。
半面、他人に感情移入しやすく、優しさが時に仇となり、他人に流されたり、言いなりになってしまうという面も持っていたという。
平成14年に入隊、その年の6月から青野原駐屯地で勤務していた。

藤田と尾ケ井さんは、当初は上司と部下の関係でしかなかった。しかし平成6年の秋ごろから、不倫関係になっていく。この関係はすぐに周囲に発覚し、規律の面からもふたりは上司に別れるよう言われていたが、どうやら別れられなかったようだ。
二人の関係が終わっていないことが隊で明るみになり、今度は話が大きくなってしまった。
藤田は思い悩み、なんと自殺未遂を起こしてしまう。
それまでは、問題になったとはいえ自衛隊内部でとどまっていたふたりの不倫関係が、藤田の自殺未遂によって藤田の家族の知るところになってしまったという。

問題を重く見た自衛隊では、藤田を遠く離れた横須賀の通信学校へ移動させる。ただこの時、それまで一等陸曹だった藤田は、陸曹長へ昇進したうえでの、移動であった。

一方の尾ケ井さんも、青野原駐屯地で引き続き任務にあたってはいたが、上司から藤田と会わないように、と何度もくぎを刺されていた。
しかし二人は、周囲の目を盗んでは、お互いの勤務地近くで密かに不倫関係を続けていたのだった。

(残り文字数:7,283文字)

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痛々しい、愛~広島・実母無理心中事件~

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平成16年2月25日

冬の空に日差しが戻ったその日、1台の車が瀬戸内の橋を渡っていた。
昨日よりも5度ほど気温も高く、海風は冷たいながらも心地よいものだった。
助手席にいる母の横顔を、男はなんどもなんども確認した。
皺が刻まれた母の顔。女手ひとつで自分たちを育ててくれた、母。

どうしてこうなってしまったのか。

使われていないフェリー用の桟橋に車を乗り入れると、男はそのまま海へとアクセルを踏んだ。 続きを読む 痛々しい、愛~広島・実母無理心中事件~

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