「晴のち嵐」~北海道羽幌・女子中学生殺人事件~

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取調室にて

「もしかしたら自分は彼女が好きで、友達でいたいから色々悪口を言われてもそれにこだわって彼女に対する憎しみになったのだと思う。彼女以外の友達であれば、喧嘩しても忘れられた」

狭い取調室の中で、少女はそう、調査官に呟いた。

少女は数週間前、同級生の女子生徒をナイフでめった刺しにして殺害していた。
かつての炭鉱の町で起こった、ふたりの少女の事件。 続きを読む 「晴のち嵐」~北海道羽幌・女子中学生殺人事件~

田舎の復讐劇、その顛末~愛媛・給食農薬混入事件~

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昭和62年5月25日

「なにこのみそ汁……」

給食当番の生徒がみそ汁の容器のふたを開けた時に見たのは、いつもよりもやけに緑がかった色をした不気味なみそ汁だった。
担任の女性教諭もそれを確認、しかし特に異臭などはしなかったことと、具材にわかめが入っていたことから、
「わかめの成分が溶けたんやない?」
ということで、そのみそ汁は生徒全員に配られた。

クラスは全部で42人。みそ汁は配られたものの、女子生徒らの多くは気持ち悪がってそれを残した。

翌日、午前の授業中、そのクラスの男子生徒が腹痛を訴えたのを皮切りに、同じクラスの生徒が次々と体調不良を訴え始めた……

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もうひとつの団地の事件~高崎・小2女児殺害未遂事件~

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平成15年夏

終業式間近の7月15日夕方、学校を出るのが少し遅くなった少女は、自宅がある市営団地の階段を上っていた。
1階と2階の踊り場に差し掛かった時、不意に背後から左腕を掴まれ、少女は驚いて振り向いた。

「なにもしないから。おうちってどこ?団地の子?」

腕をつかんでいたのは、見知らぬ男だった。
無言で腕を振りほどこうとした少女は、突然足に痛みを感じ、悲鳴を上げた。

少女の太ももにはひっかき傷のようなものが出来ており、悲鳴に驚いた男はその場から逃げ、黒い自転車で逃走していったという。
幸い、傷は浅く出血もなかったが、警察では傷害事件として捜査を始めた。
警察の調べに、少女は「若い男の人」と話していた。
捜査は続けられていたものの、それ以降、手掛かりはつかめていなかった。

ふたたびの、事件

高崎市内の県営団地の一階で暮らす女性は、玄関の外で何やら声が聞こえることに気付いた。
立ち話でもしているのかと思った矢先、女性の耳にはっきりと
「助けてください……」
という言葉が飛び込んできた。しかも、その声の主は子供のようだった。
慌てて玄関ドアを開けると、そこには小学生くらいの女の子が、お腹を押さえて横向きに倒れていたという。
「どうしたの!!」
女性が抱き起そうとすると、その女の子のおなかには、ナイフが深々と突き刺さったままだった。

女性が119番通報し、駆け付けた救急隊員らが女の子を運ぶ際、お腹に刺さっていたナイフが抜け落ちた。
その刃渡りは10センチ。救命にあたった医師らによれば、傷口から刃物はまっすぐに差し込まれており、かなり深い傷だったという。出血の量もおびただしく、もう少し通報が遅れていれば、命にかかわったということだったが、幸い、女の子の命は取り留められた。

女の子は、高崎市立矢中小2年でこの県営団地に住む大石綾乃さん(仮名/当時8歳)。医療関係者の母と、5年生の兄との3人暮らしだった。
この日は塾へ行った帰りで、一人で団地へと戻ったところだったようだ。

救急隊員らが、刺した人物について「知らない人?おじさん?」と聞くと、綾乃さんは小さくうなずいた。その後、母親に対して「ここの団地の子?」と声をかけられた後、刺されたと話していた。

団地ではこの小学生の幼い女の子が被害者となったことで嫌でも「あの事件」を思い出さずにいられなかった。
ちょうど1年前、高崎市内の別の県営団地で起きた、隣人の男による小1女児殺害事件である。
団地、小学生の女の子、帰宅直前の犯行、犯人は男……。その手口こそ違えど、共通点は多かった。
しかも、あの事件の犯人・野木巨之はすでに逮捕されている。ということは、こんな恐ろしいことをしでかす人間が、野木以外にこの地域にいるということだ。

事件後、地域住民や行政、学校は一丸となって子供たちの安全を築いてきた。それが、またもやもろく崩れ去ってしまった。

そもそも野木の事件の前にも、別の市営団地で小学生女児が襲われる事件が起きて未解決だった。だからこそ、行政はうっそうと茂る団地敷地内の木を伐採し、見通しを確保し、犯罪が起きないような街づくりをしてきた。通学路には20軒以上の「子どもを守る店・家」があった。
学校も地域も、見守りパトロールや防犯意識の啓蒙など、あらゆる手段を講じてきたはずだった。

しかし、野木の事件も、その後の綾乃さん殺害未遂事件も、防ぐことは出来なかった。

逮捕

綾乃さんの事件は、なかなか解決に結びつかなかった。
当初、救急隊員らが「おじさん(に刺されたのか)?」と聞いたことに綾乃さんが頷いた、ということから、犯人像は中年男性かと思われたが、その後綾乃さんが、
「知らない若い男の人」
と証言していたのだ。

県警では延べ4000人に及ぶ捜査員を投入し、聞き込みや現場周辺での検問を行っていた。市民からの情報も100件以上寄せられてはいたが、直接的な目撃証言がなく、捜査は難航していた。

綾乃さんが通う矢中小学校では、年度が替わった4月以降も集団下校を続け、地域の人らの協力を得て見守りの大人もそれに付き添った。

公園で遊ぶ子供はめっきり減り、仕事を持つ親たちは放課後の子供たちのことを思い気が気ではない日々を過ごしていた。

春から夏、そして秋になっても、綾乃さんを襲った犯人はわかっていなかった。

しかし警察は地道な捜査をずっと続けていた。綾乃さんから得た犯人の着衣や特徴から、この時点では犯人は10代ではないか、とあたりをつけていた。
また、綾乃さんの話から得た犯人の人相や体格、着衣などと酷似する人物の目撃証言が複数あがっていたという。
そして、聞き込みを続ける中である少年の存在が浮上していた。
捜査員が、その少年の写真を綾乃さんに見せると、綾乃さんは「この人」と言って泣き出したのだった。

高崎署は12月8日、高崎市内のアルバイトの18歳の少年を綾乃さん殺人未遂で逮捕した。

少年は、職場でストレスを抱えていたといい、人を刺せばそのイライラが解消するのではないかと考え、綾乃さんを刺したと自供。
さらに少年は、平成15年の7月に別の市営団地で起きた小3女児に対する傷害事件についても、自分がやったと認めた。

少年

少年が綾乃さんを狙ったのは偶然だったという。
たまたま通りかかった際、目に留まったのが綾乃さんだった、ただそれだけの理由で綾乃さんをターゲットにしていた。

しかし、その際少年は果物ナイフを携帯しており、綾乃さんを最初から狙っていたわけではないにしても、その日「誰かを傷つける」予定だったはずだ。
9ヶ月もの間、自分を殺そうとした人間が捕まらず、綾乃さんはどれほど恐怖だったろうか。
学校に行けたとしても、友達らの同情や興味に満ちた視線に苦しんだこともあったかもしれない。
逮捕の報を受け、綾乃さんの母は、
「自分がこのようなことをされたらどう思うか、どんなに痛くて、苦しくて、怖かったかを考えてから、ああした地に謝っていただきたい。罪を償い、わたしたちの近くには住んでほしくありません。」
とコメントした。

少年ということで、彼の家族や詳細な住所などは明かされていないが、当然地元の人々は知っているだろうし、中には親や少年自身と顔見知り、幼い頃から知っているという人もいるだろう。
これも野木と同じだ。地域社会にずっと暮らしていたいわば隣人が、隣人を理不尽に襲ったわけだ。

しかも少年は、「5年前から数回、この近所で女児にいたずらした」とも供述していた。
県警では、平成12年と13年に、女児が一時的に行方不明になったり、抱きつかれるといった被害は把握していたが、幼い子供相手ゆえ、被害が表に出ていないケースもあったのかもしれない。

そんな中で、平成15年の事件を自白したのだった。

少年は中学を出た後、飲食店などで勤務し、事件当時は自動車整備会社で洗車などのアルバイトをしていた。
雨が降っても合羽を着て自転車で通勤していたといい、無遅刻無欠勤だった。
同僚や上司によれば、勤務態度はまじめだったというが、一方でストレスに弱い、そういう印象もあったという。
たとえば、ミスをすると食事ものどを通らなくなるほど落ち込んだり、ミスが起こった過程を問われると怖気づくのか返事もできなくなり、あげく、そのまま早退したこともあったという。

「人の輪に入ろうとせず、話しかけないと話さない」

少年の印象はこういったものだった。

誰しも他人に話して気が楽になったりするものだが、少年にはその術がなかったようだ。
ひとり胸に抱え込み、それがいつしか解消できなくなってしまったのか。
そんな中、少年は自分より幼い子供に抱きついたり触ったり、といった行為を繰り返すようになる。

中学生になっても、同級生ではなく、小学生ばかりを相手にしていたと話す人もいた。

同居していた家族や少年の親族らも、少年がそこまで悩みやストレスを抱え、自分ではどうすることもできなくなっていたことに気付かなかったという。

卑怯者

少年は逆送の措置が取られ、平成18年1月27日、前橋地裁高崎支部で裁判が行われた。

法廷で少年の母親は、息子の心の苦しみに気付いてやれなかったと涙ながらに証言し、少年も、「一日中事件のことを考えている。なぜあんなことをしたのか。できれば被害者に謝りに行きたい」と口にした。

一方で、綾乃さんのことは「口封じで殺すつもりだった」とも話した。ということは、市営団地の事件でも、刃物を持っていたことを考えれば少女を殺害してもしかたない、そう思っていた可能性もある。

さらに、綾乃さん殺害に失敗したその一か月後には、再びナイフを購入し、また同じことをしようと考えていたことも明らかになった。
考えようによっては、その「再犯」は、綾乃さんに対するものだったともいえる。口封じに失敗しているのだから。
しかも綾乃さんを刺したナイフを買う以前にもナイフを購入しておきながら、別のナイフで綾乃さんを刺したことについて、「最初に買った包丁は刃渡りが短く、これじゃ死なないと思った」とも話している。
一歩間違えたら、綾乃さんは殺害されていたのだ。というか、殺害するつもりだったのだ。

検察がこの裁判で明らかにした少年の犯行は、綾乃さん以外に、平成15年の市営団地での事件のほか、1月に幼稚園児に抱きつくという事件もあった。
全て女児を狙ったことについては、「自分より力がないと思った。」と話した。卑怯極まりない。

弁護側は「勉強ができない自分を恥じ、対人恐怖症なうえ職場ではいじめに遭っていた」とし、情状面に訴えた。

検察は再犯の可能性を視野に入れ、長期的な矯正が必要であるとし、懲役5年以上10年以下の不定期刑を求刑、これに対し、前橋地裁高崎支部は、懲役5年以上7年以下の判決を言い渡した。

他人を痛めつけてスッキリする人たち

少年の心理として、抑圧された感情を全く無関係の自分よりも明らかに弱い人間を痛めつけ、不快な思いをさせることで解消するというものがあった。
少年のように実際に人を刺す、といった、命を奪うようなことは極端だとしても、私たちの周囲にはそういった感情は蠢いている。

ネットで見ず知らずの人の、自分とは何の接点もない人のちょっとした落ち度をあげつらい、執拗に攻撃を繰り返す人、それに便乗する人、いいねをする人、みな、程度は違えども、他人を攻撃することで自分の中の不満を解消しているのではないか。断っておくが、ここでいうのは批判ではなく「反撃のしようのない、一方的な攻撃」についてだ。

私自身もそうだ。自分の心に余裕があったり、うれしいことがあればそんなことはしようとも思わない。が、日常のちょっとした軋轢で心がささくれているとき、他人の落ち度や普段なら笑って許せる間違いなどがやたらと目につく。時には幸せそうな人を見ただけでも「不謹慎だ」といういちゃもんが心に沸くこともある。

そういう時は危険だ。

少年は、危険だと気づく間もなく、ストレスや不満が次々と心にのしかかったのかもしれないし、少年ゆえに未熟さもあったと思う。が、その結果は重大であるし、決して謝って許されるようなことではない。

では、私たちのやっている「他人を間接的に攻撃する」ことは?もとは同じ心理ではないか。手段が違うだけで、私たちも他人の心をメッタ刺しにしていることがあるのだ。

高崎市内で未解決だったいくつかの幼い子供への卑劣な事件は解決したが、もしかしたらいまだに言い出せないまま、心に傷を抱えている人もいるかもしれない。
少年もすでに新しい人生をどこかで生きていると思うが、どうか二度と卑怯な自分に負けず、絶対に忘れないでしっかり生きてほしいと思う。

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参考文献
週刊朝日 性犯罪者に厳罰を!!「私はなぜ、少女を襲うのか」 平成17年12月23日
読売新聞社 平成17年3月16日、23日、12月8日、9日、平成18年1月14日、4月29日、5月20日、7月1日、9月23日東京朝刊
朝日新聞社 平成17年3月17日、4月15日、12月8日、平成18年1月28日東京地方版/群馬
中日新聞社 平成17年3月29日朝刊

🔓親であり兄であり、恋人だったあなたへ~畠山武人・外伝~

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まえがき

「連絡が来ると思ってました。いいですよ、書いてもらって。事実が捻じ曲げられなければ、いいです。」

秋の終わり、私が公開しているとある記事にコメントがついた。
その記事とは、平成16年に栃木県宇都宮市で起きた拳銃立てこもり事件だ。
その詳細は該当記事を読んでもらうとして個人的にはこの事件備忘録を始めるきっかけともいえる思い入れのある事件だった。

コメントしてくれたのは女性で、彼女はこの立てこもり事件で死亡した畠山武人氏と、それ以前に人生の一時期をともに生きた人物である。

宇都宮の立てこもり事件を書いた後、畠山氏と刑務所で一緒だったという人や暴力団関係で知り合いだったという数人から話を聞くことは出来ていたが、いずれも男性であり、さほど深い関係の人はいなかったことから、私はすぐさま彼女に連絡を取った。
そこで彼女が語ってくれた内容は、凄まじい迫力に加え、本人でなくては絶対に出せない生々しさに満ち溢れていて、私は圧倒されてしまった。

重大な罪を重ねたあげく、若き愛人と手をつなぎ頭を拳銃で撃ちぬいて心中した男。その荒ぶる魂に隠された「人間・畠山武人」を、私はなぜかどうしても残しておきたくなった。

平成3年の夏の終わりに宇都宮市内で起きた、覚せい剤と立てこもりと、彼と女子中学生の物語である。

【有料部分 目次】
事件概要
あの夏の少女
出会い
軋み
後輩の女
厳しい現実
逮捕、そして別れ
けじめ
永遠の別れ

箍のはずれたふたりが夫を殺すまで~八王子・男性教師殺害死体遺棄事件~

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平成4年11月17日



神奈川県藤野町にある峠に向かう道を、男性は自転車で登っていた。

この峠道はいたるところに休憩所やベンチなどが置かれ、自転車でのぼる人のほかに、ハイキングで訪れる人もいる自然豊かな場所だ。
男性が「それ」を見つけたのは、ふと足を止めた落ち葉の中だった。ゴミかと思った「それ」は、骨のようにも見えた。
「まさか・・・」
そう思ったが、どうも気になった男性は110番通報。後にそれは、人骨であることが判明した。

警察が周辺を捜索したところ、男性が骨の一部を見つけた場所に接する斜面からほぼ全身の人骨がバラバラの状態で発見された。
しかも、胸の骨には刺し傷のような痕、そして額部分にも殴られたような傷痕があったことから、この人は殺害されてこの場所に遺棄されたとみられた。 続きを読む 箍のはずれたふたりが夫を殺すまで~八王子・男性教師殺害死体遺棄事件~