男を無期懲役囚に変えた妄想と悪意~日立・仲人一家殺害放火事件②~

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被害妄想

憲司にはA子さんとのこと以外にも悩みがあった。
近頃、どうも電話をしている最中に「雑音」が入るのだ。最初は気にしていなかったものの、気になり始めると頭から離れなくなった。
思いかえすとおかしなことはかなり前からあった。結婚してすぐの頃、防錆管理士や危険物取扱者の資格者証が家からなくなったことがあった。板金工場を営んでいた時も、スプレーガンがなぜかいつも無くなっていた。
また、送風装置を作った際にも、その装置がうまく働かず仕事が中断されることが何度もあった。
それだけではない、町内会の旅行の幹事を請け負ったとき、不参加になった人に旅行代金を返金したにもかかわらず、返してもらっていないと言われたこともあった。憲司はこの時、不本意ながらも自腹で穴埋めをした。
それ以外にも、いつも行くプールの駐車場で駐車をめぐってトラブルになったこと、警備会社の食堂で食事をすると腹痛を起こしたこと、あぁそういえば、板金の仕事に使用していた「つなぎ」の同じ個所にいつも穴が開いていた。

憲司はこれらの事象のすべてを、「何者かによる悪意ある仕業」であると思うようになっていた。
そしてそれは、すべてA子さんと結婚した後で起こっていること、しかも、今橋さんから入会を誘われたあの宗教団体に入るのを拒否した後で起こっていることから、憲司の頭の中には宗教団体による組織的な「嫌がらせ」という構図が出来上がっていた。
そうだ、なにもかも、今橋さん夫婦が「仕組んだ」ことに違いない。言いなりにならなかった自分への嫌がらせを組織的にあの宗教団体がやらせているのだ、そう考えればすべてつじつまが合うではないか…
憲司の頭の中ではそれは抗いようのない事実となっていた。

決行の夜

憲司は自分の人生にすでに見切りをつけていた。
貯蓄もほとんど使い果たし、仕事もなく、体も思うようにならない。大切な子供たちに事由に会うことすらできない。
実は平成10年の秋、ヒッチハイクで茨城県内へ出向いた憲司は、そこで自動車を盗み逮捕されてしまう。
憲司は自殺する意思を固め、母や元妻であるA子さんらに宛てた遺書のようなものも準備していた。
そこには、自分が死ぬのは子供たちをあの宗教団体から遠ざけるためなのだから、それだけはしないでくれ、という趣旨のことを記した。
それと同時に、今橋さんにさえ関わらなければ、A子さんと結婚しなければ、憲司は今の自分の境遇もすべて含めて今橋さん夫婦の責任であると思い込むことで、なんとか自分を保っていた。

そして、自分一人が死んでも何も変わらない、A子さんを道連れにしてしまうと子供たちが不憫であるから、いっそ諸悪の根源である今橋さん方を巻き込んで騒ぎを大きくすれば、世間の目があの宗教団体に向くのではないか、とも考えるようになった。

遺書を用意して一か月ほどが経過した平成12年2月29日の深夜。
A子さん方の様子をうかがいに行った帰り、大型トラックにクラクションを鳴らされた上パッシングされた。
憲司はそれもあの宗教団体の仕業だと思い込んだ。

先の述べた通り、ガソリン入りのペットボトルをおよそ15リットル分持ち出し、そのまま今橋さん宅に向かった。
勝手口をバールでこじ開けて室内に入り、今橋さん夫婦の寝室を探していると、二組の布団が敷かれた部屋を見つけた。
そこが夫妻の寝室だと思った憲司は、人の形に盛り上がった布団を確認して布団にガソリンをかけた。
躊躇することなくライターで火を放つと、それに気づいた二人が起きだしてきた。
その部屋で寝ていたのは今橋さんの妻・とし子さんと13歳の孫で、憲司はとし子さんの背後からさらにガソリンをかけた。
既に火の手が回っていた部屋の焔がそのままとし子さんの体に引火、瞬く間にとし子さんは火に包まれてしまった。

さらに、茶の間へ移動した憲司のもとに、騒ぎに気付いて起きだしてきた娘婿のCさんがやってきた。そこでも憲司は、パニックのCさんの体にガソリンをかけ、室内の火を引火させた。
続いて勝手口で鉢合わせた今橋さんの娘・Bさんに対して、真正面からガソリンをかけた。
このようにして憲司はとし子さんを焼死させ、BさんとCさん、そして孫の一人に大やけどを負わせたうえ、今橋さん方を全焼させた。

裁判

裁判では憲司の精神状態についても審理された。
憲司は裁判が始まっても一貫して「宗教団体による嫌がらせ」を主張、さらにはとし子さんが病院で死亡したことまでも、「宗教団体の指示で医師が殺害した」という荒唐無稽な主張をした。
そういった言動もあり、憲司は「パラノイア(妄想性障害)」であり、それによって犯行前後は心神耗弱の状態にあったと弁護側は主張した。

第11回公判調書においては、医師の鑑定書が提出された。
それによれば、憲司は幼いころから父親の影響でA子さんが信仰する宗教に対して拒否感を持っていたところ、A子さんとの結婚によって自らその宗教にかかわらざるを得ないような状態が作り出され、加えて自身の境遇や、人生においての不愉快な出来事がすべてその宗教と関係しているという考えに支配されているものであって、程度としては中程度の重さであると考えられるものの、離婚を子供らのために思いとどまったり、元来の憲司の性格(物事を機械的にとらえる、被害感情を持続しがちな性格)によるところも大きく、本人の全生活を支配するほどの重症とはいえない、とした。

また、通常妄想障害が重くなって事理の弁識すら困難になると、きっかけの出来事があると爆発してしまい、唐突な行動に出るケースが多いにもかかわらず、憲司の場合はいわゆる「ため」の期間があること、子供達のことを考えて手続きなどを踏んでいることなどが見られ、その点でも心神耗弱に値するような妄想障害であったとは言えない、とされた。

裁判所はこれを採用し、憲司の心神耗弱を退けた。

憲司が一番訴えたかった「宗教団体による嫌がらせ」についても、そもそも今橋さんが繰り返し勧誘したのは結婚後の1年程度であり、その後は特に入会を促すような話はしていなかった。
A子さんの行動には、確かに宗教に起因するものがありはしたが、かといってそれを憲司にも強要するようなことはなかった。
むしろ、自宅の洋服ダンスに曼荼羅をかけても良いかとわざわざ憲司の許可を得ようとしたり、憲司があまりにも怒るためにA子さん自身も信仰しないと一旦は口にするなど、決して憲司に入会させるために今橋さんやA子さんが動いたという印象もない。
憲司は宗教団体から命を狙われているとまで思い込んでいたと供述したが、当時勤務していた警備会社の社員食堂で腹痛を起こしたことや、夜中に治療中の歯が痛むといったことをその理由としており、到底理解できるものではなかった。

なにより、恨みがあったのは今橋さん本人であるはずで、妻のとし子さんにいたっては憲司に勧誘すらしていない。ましてや、娘夫婦やその子供たちは全くと言っていいほど憲司とはかかわりがなかった。
にもかかわらず、家人が寝静まった頃を見計らって、大きな損害が確実に出る放火という手段を用いて殺害しようとするなど、どう考えても微塵の同情も出来るはずがなかった。
しかし憲司は、そうすることが世間の注目を集め、結果として自分には同情が集まると考えていたのだ。

実際には、A子さんとの結婚生活の破綻は、自らの疑り深い性格によるもので、正直宗教全く関係ないやんと言わざるを得ない。
さらにはその疑いから暴力行為にまで及んでいる以上、A子さんが離れていったのは憲司の行動によるものでしかなかった。

判決は死刑。
自殺を図り憲司自身も重症のやけどを負ったことや、全てを売り払って1500万円を今橋さんに提供したことが情状酌量に値するかも慎重に審議されたが、そもそも慰謝料として支払った1500万円も、憲司が自ら行ったのではなく、憲司の兄がしたことであること、結果として4人は助かったとはいえ、子供達も含めて目でわかる傷が残っていること、恨まれるいわれもないとし子さんが殺害されたこと、そしていまだに憲司が妄想の中で生きていることなどを踏まえると、矯正可能とは言えないとされた。
その後の控訴審で、死刑相当であるとしながらも心神耗弱が認められ無期懲役。そのまま確定した。

信仰の自由

この事件は、被害妄想に陥った男が逆恨みのはてに仲人一家を惨殺しようと企て、結果一人が死亡、4人が生涯に残る傷を負わされ、一家は住む家と家族の思い出を失った事件だ。

しかし、憲司にしてみればそうではない。
真面目に、こつこつと生きてきたのが、あの見合いをしたことでじわりじわりと得体のしれないものに侵食され、きがつくと足元だけを残してすべてが崩れ去っていたわけだ。
もちろんこれは憲司の被害妄想でしかないし、憲司自身もそれらのことに宗教団体がかかわっているという証拠はないと話している。

私自身は特に強く信仰心を抱いているわけでもなく、結婚式は神前だったしクリスマスは一年で一番好きだし、初詣にもいくし短大はカトリック系だったので食前のお祈りも出来る。たまにやってくるエホバのおばさんとも友達だし、選挙のたびに誰だよみたいな同級生からも連絡があったりする。
けれど実家は曹洞宗だし葬式はお寺でするし、お墓も仏式だ。
この混沌とした宗教観が当たり前であるにもかかわらず、特定の宗教や新興宗教に対しては嫌悪の感情を抱くこともある。
憲司はとりわけその意識が強かった。そこへ、結婚した後でその忌み嫌う宗教を妻が信仰していたことを知ったら。
今橋さんは確かに無理強いもしていないし、自分たちが信仰する宗教の内容を教えたりするにとどまっている。

しかしおそらく憲司が許せなかったのはそこではない。断言するが、今橋さんは勧誘目的で妻の姪であるA子との見合いを持ってきた、これは間違いない。
その宗教団体では、お題目を唱えることよりも新しい会員を捕まえることの方に重きが置かれていたのも事実で、となれば同じ宗教に入っている人同士をくっつけるより、会員でない人間とA子さんを引き合わせた方が、新規会員の獲得につながる。
しかも、結婚となれば宗教は切っても切れない話であり、それを言わなかったというのは私からしてみれば「悪意」と思えてしまう。
憲司と同じ立場に立った時、絶対に同じような妄想を抱かないと言えるだろうか。
歯が痛むことまで関連付けるとは思えないにしても、不可思議なことが起きてしまうと、ふと、なにかに理由を求めてしまうかもしれない。
さすがに殺そうとは思わんにしても、「騙されて結婚させられた」という部分だけは拭いきれないかもしれない。

憲司は真面目で礼儀正しい男だった。決して、最初から向こう側の人間ではなかった。昭和の時代、誰もが思い描く「中流の普通の家庭」を作り、人生をより良いものにしようと仕事も計画的にやってきた人間だった。
それがどうしてこうなったのか。
裁判ではもともとの性格にも問題があったというが、言い方の問題で、被害感情を持続させがちというのは、言い換えれば何かあっても強く出られず自分の中に溜め込んでしまうともいえるし、機械的に物事をとらえるというのも、曖昧なことが嫌いで白黒はっきりさせたいという性格ともいえる。
そんな人は世の中に山ほどいるし、はたして特筆すべき稀有な性格と言えるんだろうか。しかし、もしも結婚の際にA子さんの宗教の話を憲司が知り得ていたら、もしかしたら違う人生のレールに乗っていたかもしれないと考えてしまう。
少なくとも先に知っていれば、たとえ結婚したとしても「騙された」とは思わないだろうから。

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参考文献
判決文

🔓忌まわしき過去の清算と代償~山形・一家3人殺傷事件~

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2006年5月7日

まだ夜も明けきらぬ午前3時55分。
山形県西置賜郡飯豊町の役場近くの民家から、女性の声で119番通報が入った。
「助けて!お父さんが殺される!」
尋常ではないその声に、すぐさま消防と警察が駆け付けた。
現場には、その家の主人であるカメラ店経営・信吉さん(当時60歳)と、その妻で看護師の秀子さん(当時55歳)、そして、夫婦の長男である覚さん(当時27歳)が血まみれで倒れていた。
秀子さんはかろうじて意識があったものの、信吉さんと覚さんは死亡していた。
襲われる理由が見当たらないとする中、約6時間後、近くの山中にある神社で血まみれで座り込む男が発見された。
男は、伊藤嘉信(当時24歳)。殺害された被害者家族とは親戚関係にあり、自宅も同じ組内に存在するほどの古くからの知り合いであった。

凄まじい憤怒の現場

早い犯人逮捕ではあったが、そもそもなぜ、嘉信がこの古くからの知り合い一家を襲ったのか、当初は謎であった。
殺害された覚さんと嘉信は、年が4つほど違うが幼馴染である。しかし、その覚さんへの凶行は、他の被害者よりも執拗で残忍を極めていた。

5月8日から行われた取り調べの中で、嘉信は「信吉さんと秀子さんについては、危害を加えるつもりはなかった」と話し、最初から覚さんを狙った犯行であることが判明。
供述によれば、信吉さん方へ進入した際、玄関わきの引き戸を開けたところ豆電球がついており、当初そこに覚さんが寝ていると思っていたところ、覚さんよりも小柄なふたりの人間の姿が見えたため、引き戸を締めようとしたという。

その際、引き戸ががたつき、秀子さんが気配に気づいて「誰?」と声をかけてきた。
寝ぼけ眼の秀子さんが薄灯りのなかで家族ではない人影を認識した途端、ギャーッ!という叫び声をあげた。
そして、それに反応した信吉さんも「何事だ」などといって起き上がり、嘉信(この時点で嘉信だと認識はしていないと思われる)の方向へ向かってきた。
嘉信は用意していた刃物(ニンジャ・ソード)で信吉さんの腹部辺りを刺し、さらにもみ合ううちに無我夢中で信吉さんを刺しまくった。
その直後、廊下の奥から男性の「うわあっ!」という声が聞こえ、その声の主こそが覚さんだと確信した嘉信は、その瞬間まではパニック同然の気持ちが途端におさまり、パニックではない明らかな殺意とこれまで感じたことがないほどの高揚感が体を支配した。
信吉さんを払いのけると、そのままためらわずに覚さんへ向かい、胸や腹を一突き、さらに上半身のどこかを数回刺した。

その後、傷を負ってもなお、嘉信に抵抗をやめない覚さんに対し、はっきりと覚えきれないほどの傷をさらに負わせ、息子を救おうとする母親・秀子さんに対してもけがを負わせた。
激しい取っ組み合いの末、玄関付近まで逃げていた覚さんの頭を拳や膝で殴ったり踏みつけたりし、倒れた覚さんの頭を足で4~5回踏みつけた。

3人の生死は確認できてはいなかったが、ふと、覚さんの祖母のことを思い出した。
幼いころから知っているおばあちゃん。もしかしたら現場を見られたかもしれない。
しかし、嘉信自身も覚さんの反撃で負傷しており、おばあちゃんを捜すのはやめた。

車に戻り、なにも考えられない状態で車を発進させた際、タイヤをしたたかに何かにぶつけたらしかったが、その時は気にも留めなかった。
少し走って、どうやらパンクしているらしいことに気づき、嘉信はなぜかタイヤ交換をしようと思いつく。
人目につかない方が良いと考え、何度か行ったことのある山道へ車を走らせたが、その途中で車は自走不能になってしまう。
そこでようやく、今更パンク修理などしたところでどうなる、と思い、また、覚さんに斬りつけられた右手も痛むため、車を放置して徒歩で山の奥へと向かう。
車の足元に、凶器のニンジャ・ソードが落ちていたのを目に留め、証拠隠滅のために持ち出して途中で棄てた。

逃げる途中、嘉信は幼いころから今日までの出来事を考えた。右手からの出血は予想以上にひどく、幾度か気を失いそうになりながらも、ある思い出がよみがえるたびに、今日自分がしでかしたことは自分を取り戻すためだと、積年の恨みを晴らしたのだと言い聞かせた。

覚さんと嘉信の間には、想像をはるかに超えた因縁が渦巻いていたのだ。
嘉信は小学4年生のころ、被害者である覚さんから「いじめ」を受けていたという。

しかしそれは、いじめというよりも「性的暴行」であった。

【有料部分 目次】
衝撃の告白と被害者家族

殺意の形成
PTSD
裁判所の見解
言いたくても言えないこと

差別と自死で煙に巻かれた本筋~奈良・月ヶ瀬女子中学生殺害事件~

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平成9年5月4日。
月ヶ瀬村の嵩集落にある自宅へと続く鬱蒼とした道路を、少女はひとり歩いていた。ついさきほど別れた友人の姿は、もう見えなくなっている。
自宅まではここから坂道を登っておよそ500m。鬱蒼とした村道ではあるが、幼いころから知っている慣れた道である。
顔見知りの商店のおばさんの車とすれ違う。この道を通るのはほとんど顔見知りの村の人ばかりだ。

背後から来た車が不意に停車し、運転手が声をかけてきた。
「乗っていくかい?」
充代さんは、顔を上げた…

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🔓差別と自死で煙に巻かれた本筋~奈良・月ヶ瀬女子中学生殺害事件②~

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高野嘉雄弁護士の存在

それに着目したのが、奈良弁護士会の高野嘉雄弁護士である。
殺人事件、少年犯罪などの刑事事件で弁護を重ね、裁判では情状面を非常に重視する弁護士としても知られる。
「弁護人は(被告にとって)最後の情状証人」であるとし、たとえどんな犯罪を犯した人間であっても、自身の感性を研ぎ澄ませ、全力でぶつかり弁護していくという、弁護士からも尊敬される大変優秀な弁護士である。
甲山事件、奈良の小一女児殺害事件などの有名な刑事事件を手掛けたほか、無銭飲食、窃盗などの比較的軽微な事件でもその精神は同じであった。

誠人の弁護には3人であたっており、弁護と言うよりも誠人の心をどうすれば開かせることが出来るのか、誠人の本当に言いたいこと、苦しかったことをきちんと世間に伝えたい、その上で、誠人に立ち直ってほしい、そういう思いをもってこの事件に臨まれたと推測する。

【有料記事 目次】
・与力・区入り制度
・浦久保家との関係
・家族をして「根源」と言わしめた母親
・放火疑惑と花瓶事件
・叱られることを知らずに育った男
・誠人が囚われた呪縛
・被害者遺族への中傷と「人の道」
・その後

ここからは有料記事です

🔓悪いのは、全部あなた~宇都宮・主婦散弾銃殺害事件~

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平成14年7月4日。

その日は梅雨空で、正午過ぎの郊外の新興住宅地は人通りもまばらであった。
栃木県宇都宮市さつき3丁目。
大手自動車メーカーや、宇都宮駐屯地に勤務する自衛隊員らの家族の家が多いその一角で、事件は起こった。

その新興団地に住む初老の男は、その手に散弾銃を持ち、隣家のベランダへその銃口を向けた。ベランダには隣家の主婦、田中公子(当時60歳)が日課の布団干しを行っている最中で、パンパンパンパンとリズミカルに布団を叩く音が周辺に響いていた。

男は公子さんに狙いを定めると、無言のまま、驚いた表情の公子さん目掛け発砲。
銃弾は公子さんの左半身と左顔面に命中、そのまま公子さんはベランダに倒れ込んだ。
男は鍵を壊し家の中へ入り、公子さんが倒れているベランダへと階段を駆け上がった。そして、瀕死の状態であえぐ公子さんに、迷いなく至近距離から5発撃ちこんだ。男はその後、不意に外に目をやり、近くの家から走り出てきた主婦・海老沼志都子さんにも計5発発砲、海老沼さんは左頭部から肩にかけて被弾する。

男は名を高橋卓爾(当時62歳)という。すでに駆けつけていた警察官に臆することもなく、2階和室に座り込んだ。目の前には公子さんが虫の息で横たわっている。それを確認すると、男は猟銃を口に咥え、迷うことなく足の指で引き金をひいて自らの頭を吹き飛ばして果てた。

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