🔓夫と子供を殺した女が欲しかったもの~佐賀・長崎父子連続保険金殺人②~

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【有料部分 目次】
次男
「私は泥沼をみました」
やぶれかぶれの強盗
満月の夜
人を殺すなんてできない
母親と、愛
レイプした男との蜜月
「幸せって何でしょう?」
幸せ探しはまだ続く

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暗闇で「やったつもり」の育児の果て~厚木・男児死体遺棄事件~

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平成26年5月30日

神奈川県厚木市下荻野のアパートに、警察官に連れられた男の姿があった。
男は警察官に促されて自室のアパートの玄関を開けた。
室内は真っ暗だったが、それでもゴミだらけの凄まじい状態であることは一目瞭然、カビとも腐敗臭ともつかない異様な臭いがたちこめていた。

警察官らが室内に入るのを横目に、男はその場に立ちすくみ、額から汗を滴らせている。

室内奥の六畳間を開けた警察官らは、にわかに騒がしくなった。
ゴミをかき分け進んだ6畳間の布団の上で、小さな小さな白骨遺体が発見されたのだ。

男はその部屋に住んでいた斎藤幸裕(当時37歳)。トラックの運転手をしていた。
その年の3月、厚木児童相談所が所在のつかめない児童を掲載したリストの一斉点検を行ったところ、小学校に入学していない男児の存在が明らかになったことで、父親であり、該当の住所に住んでいた男のアパートを警察が任意で調べることになったのが事件発覚のきっかけだった。
白骨遺体は、幸裕の長男で所在不明になっていた斎藤理玖くんだった。所在が不明になってから10年近くが経過し、さらにはいつ死亡したのかもわからなかった。

「誰も知らない」

幸裕と理玖くんがどうやらこの部屋で生活していたということは分かったが、二人がなぜ、二人暮らしになり、なぜ、理玖くんが死亡したのか全くわからずにいた。
事実として、幸裕はその時点で妻(理玖くんの母親でその時点では所在不明)がおり、別の女性と数年にわたって別のアパートで同棲していること、トラック運転手という仕事を持っていること、その上で、この厚木のアパートの家賃を今の今まできちんと払っているということだった。

そして、驚くべきことにある時を境にして、このアパートで幼い子どもと父親が二人で暮らしていたことを、誰も知らなかったというのだ。そして、それは10年間発覚することはなかった。
あの是枝裕和監督作品で有名な「誰も知らない」という映画、あれも実際に起きた巣鴨での4姉弟妹置き去り事件を題材にしたものだが、あの4人はある程度年齢がいっており子供ながらに知恵を出し合うことも可能で、外出することもある程度は可能だった。一番下の妹が、外の世界とつながった兄とその友人らによって暴行されて死亡する結末(映画では不慮の事故、みたいに描かれていたが、実際は兄とその友人らによる激しい暴行の末の死)とはなったが、少なくとも餓死はしていないし、その暴行事件がなければだれも死なずに済んでいたかもしれない。
この厚木の事件の場合は、たった一人でしかも自力では絶対に生きていけないレベルの年齢でのことで、普通に考えれば悲惨な結末しかないというのは明らかだった。
報道では当初からこの父親のあきれ返るほどの無責任、無知がクローズアップされ、可愛らしい理玖くんの写真が見る者の涙と怒りを増幅させた。
自身は新しい女を作って家を空け、理玖くんを邪魔者扱いして放置し餓死させた、事実から見ると確かにそうだが、調べていくと、そして実際に幸裕に取材をしたルポライターらの著書を読むと、いささか見える風景が変わってくる。

幸裕は、理玖くんを邪魔に思っていたのか。死んでしまうかもしれないという結末が見えていたのか。死んでもいい、と思っていたのか。
そして、10年間も理玖くんの存在が周囲にわからなかった、そんなことなんてあるのか。その原因はなんだったのか。

子どもの事件や貧困、虐待に関する著書も多いルポライターで作家の石井光太氏、大阪2姉妹遺棄事件の取材で有名なフリールポライターの杉山春氏、この両者の、幸裕本人への面会や丁寧な取材によるルポをもとに、見えてくる父子の姿、10年間を私なりに考えてみた。

破綻まで

理玖くんが生まれたのは、2001年の5月30日。その時すでに事件現場となったアパートに、幸裕とその妻は暮らしていた。
幸裕は当時23歳と若かったが、運送会社に勤務しておりおよそ20万円から25万円程度の収入があったという。妻は当時二十歳。若いながらも、親子三人での暮らしを成り立たせようと当初はしていたようだ。
しかし、結婚前から幸裕は気に入らないことがあると手を挙げることがあった。これは後述するが、妻によれば「酷いDVであり、自分は怖くてたまらなかった」らしいが、幸裕に言わせると少し違う。
少しずつ綻びが見え始めた2002年の年末には、「経済的な理由」から、妻が幸裕には内緒で風俗店に勤務するようになった。
幸裕からは月に5~10万の生活費を渡されていたというが、妻によると生活には困窮していたという。
それをカバーするために選んだのが風俗というのは突飛な気もするが、ともあれ託児所付きのその風俗店で妻は午前10時から深夜まで働いた。

幸裕も、仕事で帰宅が深夜になるため、そういった妻の生活に気づかなかった(わけはないか)、もしくは無頓着だったのか。
いずれにせよ、夫婦の関係は悪化の一途をたどり、2004年の秋頃にはもう修復不可能な状態に陥っていた。
そして10月7日の未明、アパート付近の路上をオムツに赤いTシャツで裸足の理玖くんが泣きながら歩いているのを近隣の人が発見、警察が保護して午前8時ころに厚木児童相談所が幸裕に連絡した。
仕事中の幸裕から連絡を受けた妻は、2時間ほど後に理玖くんを迎えに赴いた。その時はしきりに反省の弁を述べ、夫に任せて外出していたと言った。
対応した児相がアホ過ぎたため、この時の一件は「迷子」で処理されてしまう。ありえん。
しかし、その日の午後、幸裕が仕事から帰ったのを見計らうかのように、妻は「買い物してくる」と言って家を出、そのまま戻らなかった。
私の知り合いでも10年位前から豆腐を買いに行くと言ったまま帰宅しない妻を持つ夫がいるが、これではおちおち買い物にも行かせられない。

待てど暮らせど帰ってこない妻に、幸裕は何度も連絡をつけようと試みたというが、妻とは一切連絡が取れなかった。

若い二人の結婚生活は、この日事実上破綻した。

「これからは二人だから」

幸裕は幼い理玖くんを自分一人で育てると決めた、というより、そうする以外の選択肢を知らなかった。
実家は経済的に迷惑をかけていたこともあり、また、相談すべき先も幸裕の頭の中にはなかったのだ。
幸い、普通の収入を得ることが出来るトラックの仕事はあった。理玖くんにはさみしい思いをさせるかもしれないが、幸裕は何とかなると考えていた。

「これからは二人だから。二人で生きていこうね」

幼い理玖くんと向き合い、そう話したと幸裕は言う。
もちろん、世の中にはこのような父子家庭は山ほどあり、しかも父親がきちんと仕事を持っているとなれば、ハードルはあるものの何とかやれそうに思うのだが、それは「普通の感覚」をもっている常識的な人間にしか当てはまらない。

幸裕は、「なんとかなる」ということをいつも漠然と思っていたようだった。

しかしその「なんとかなる」は、私たちが想像もできないようなことを平気でやってのける上での「なんとかなる」であったことが裁判の過程で明らかになっていく。

普通、幼い子どもがいて自分しか養育者がいない場合、仕事をする時間帯はどこかに預けなければならないと考える。片親の場合は保育所への入所も、両親のいる子供に比べればポイントが高い。
そこが無理でも、託児所などを探す、とにかくどこかに預けなければならない、ということは誰でも理解できることだし、避けて通ることのできない部分である。
幸裕はそれをすっ飛ばした。というか、「家においておけば問題ない」と考えていた。保育園については一応考えたものの、送迎が出来ないことで無理だと思った、という。もちろん、相談などはしていない。

迷子事件から学んだのか、幸裕は家中のカーテンを閉め、外からは中が窺えないように細工した。
さらに、理玖くんがいる和室の戸に目張りをして、理玖くんが開けられないようにもした。とにかく、幸裕からすれば理玖くんが家の中にさえいれば、安全だと思っていたのだろう。それを世間では放置、虐待と呼ばれることもおそらく理解できていなかった。
食事は、仕事の日は昼以外の朝と晩の2回。休みの日は普通に3度の食事。ただし、自炊などをしない幸裕が理玖くんに与えるのは、コンビニのおにぎりや総菜パンなどだった。幼い理玖くんでも自分で持って食べられるからだろう、幸裕自身は弁当の時も、理玖くんはパンかおにぎりだった。
それ以外の育児は、オムツ交換、お風呂、月に1~2度の外出などだったという。

経済的にはどうだったろうか。
トラック運転手として20万円以上は手取りがあったというが、妻が出て行ってからはそれまで妻がしていた公共料金の支払いなどを失念したり、払えないことなどがあったようで電気、ガスはすぐに供給停止となった。
普通は、こうなる前に、いや1万歩譲って最悪停止されてから急いで払いにいく、となる。ガスは人によっては後回しになるかもしれないが、電気が止まれば相当困ったはずだ。支払いも、コンビニなどで24時間可能だ。

しかし、幸裕は電気が止まっても料金を払うよりも「そのままの生活」を選択した。
この話を聞いたとき、ふと誰かが言った「脳は三日で慣れる」という言葉を思い出した。
脳は順応性が高く、たとえ天地がさかさまになったとしても3日あれば慣れる、といった話で驚いたのだ。
だが、この幸裕のとった行動を見ていくと、おそらく幸裕は私たちよりもそのことをよく理解し、というか、これまでに嫌というほど経験してきているのだろうなと思った。事実、幸裕は暗闇での生活を裁判で聞かれた際、「暗かったけれど慣れれば理玖がどこにいるのかはわかった」と平然と答えている。
ていうか、そういうことを聞かれたわけじゃないんじゃないかなー、と思わなくもないが、とにかく幸裕にとって暗闇での電気がない生活、子育ては「成立」していたのだった。

この、私たちには考えられない驚異の「慣れ」はどうやって身に付いたのだろうか。
そのカギは、幸裕の子供時代に隠されていた。

 

🔓暗闇で「やったつもり」の育児の果て~厚木・男児死体遺棄事件②~

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幸裕の幼少時代と、家族

幸裕が生まれたのは1978年で、私とほぼ同世代である。一部上場企業の工場で勤務する父親と、専業主婦の母親。年子の妹と4つ下の弟という、その時代の主流ともいえる家庭がそこにあった。
当初は横浜の鶴見区で暮らしていた一家だったが、幸裕の小学校入学に合わせるかのように神奈川県愛川町に誘致された系列会社の工場に父親が勤務することとなって、一家は引っ越してくる。

まだまだ好景気だったその時代、次々と工場が誘致され、そこに働く人々のために大きな団地も次々と建設されていった。
その時代、今よりも一家の大黒柱と家庭を支える妻の役割ははっきりしていて、男は外で仕事、家庭や子育ては妻、というのは当たり前だった。もっとも、会社としてもよほどのことがなければ終身雇用は当たり前、家族への手当ても充実していた。だから、妻らは余裕をもって専業主婦になれたのだ。
斎藤家も同じで、3交代で勤務する父親にはそもそも子育てに深く関わったり、家事を手伝うなどといった考えはなかったし、現実的でもなかった。
そんな中で育った幸裕だったが、父親との記憶はほとんどない。それでも友達も多く、外で元気に遊ぶ幸裕は弟や妹との関係も良く、大きな問題などはないように見えた。

その生活が暗転したのは小学校6年生の時だ。

【有料部分 目次】
もう一人の保護責任者
「だって仕事があったんですよ!」
懲役19年
殺人罪からの、保護責任者遺棄致死
発覚が遅れたのはなぜか
紙吹雪

ここからは有料記事です

三つ子ワンオペ育児は情状酌量に値するか?

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平成30年1月11日

豊田市内のアパートから、「子供が動かない」と119番通報があった。
救急隊員らが駆け付けたところ、1歳くらいの男児がぐったりとしており、傍らでは通報してきた母親らしき女性が必死に心臓マッサージなどを施していた。

男児は病院へ搬送されたものの、意識不明の重体であった。診察した医師によると、頭がい骨骨折の所見があった。

当初、母親は付き添っていたが、忽然と姿を消す。幼い子どもが生死の境をさまよっているというのに、なぜか母親は黙って自宅へと戻っていた。
ケガの状況などから不審に思った病院が児童相談所(県豊田加茂児童・障害者相談センター)へ通告。その後の調べで、母親が男児を床に複数回叩きつけたことを認めたため、殺人未遂で1月12日に逮捕した。

男児はその後、1月26日に死亡したため、殺人容疑に切り替えて捜査が行われた。当初は幼い乳児を床に叩き付けるという残虐な行為に非難が殺到、母親に対しても当たり前の批判が展開されたが、裁判が始まると、風向きが変わった。

母親が育てていたのは、その男児を含めた「三つ子」だった。

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🔓裁判所をも激怒させた父親の所業といいわけ~大阪・実娘強姦事件~

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【ご注意】

読んでいただきありがとうございます。Twitter等でこの記事を引用し、自己の主張のために利用されている方がいますが、それらのいかなる考え方についてもこの記事、ならびに事件備忘録@中の人は同意ではありません。この記事中の都合の良いところだけを抜き出して何かの証拠のように扱うことに賛同しません。

平成10年5月

その日父親は、9歳の次女と7歳の長男に「遊びに行ってこい」と命じた。朝から妻はパートへと出ていて、これで家には11歳の長女とふたりだけになった。
幼い子どもたちは普段、児童養護施設で暮らしており、週末だけはこうして自宅へと戻るという生活をしていた。
父親は、玄関の鍵を閉め、長女のいる部屋へと向かう。
「この前は入ったで。もう一回、させぇ」
父親の唐突なこの言葉の意味が解らず怪訝な表情の長女に対し、父親はおもむろにズボンと下着を一気に脱いだ。

【お断り】
この事件については、その内容からほとんど記録がない。そのため、新潮45/20059月号にノンフィクションライター・新井省吾氏によるドキュメントが掲載されており、その内容からの考察となる。

地獄の日々

長女はそれ以前に、この父親に服を脱がされ、全裸の写真をポラロイドカメラで撮影されるという出来事が起こっていた。ただその時は、長女も就寝中で寝ぼけていたこともあり、さほど意味のある事とは考えていなかったようで、周囲の人に相談するとかそういったこともなかった。
その日、父親が言った「この前は入ったで」という言葉も全く意味が解らなかった長女は、「何が入ったん??」と聞き返した。
直後、父親のとった行動に当然ながら長女は仰天し、悲鳴を上げて逃げ惑った。玄関には鍵がかかっており、とっさのことで長女は慌てふためいてドアを開けられなかった。
父親は逃げる長女の髪をつかみ、そのまま奥の部屋へと引きずっていくと、敷きっぱなしの布団の上に長女を投げ飛ばした。
なおも逃げようとする長女を仰向けに押さえつけ、怒声を浴びせ、右頬、腹部を殴りつけた。
そして、痛みと恐怖で抵抗することをやめた長女に対して、極悪非道な行いをしたのだ。

長女に対し、それ以降も悪魔の所業は行われ続けた。その期間はなんと4年以上である。
養護施設にいた子供たちを引き取ったのも、週末だけではなく気が向いたときにいつでも長女に暴行するためであった。もちろん、目の届くところに置くことで、外部への漏れを防ぐ狙いもあっただろう。
長女は誰にも相談できず、一人絶望の中で日々を過ごすしかなかった。
そもそも、父親はこの長女が誰にも相談しないことをわかっていた。それは、もともと精神的に脆い母親の存在があったからだ。
長女は体調が悪くなると酷いうつ状態に陥る母親を気遣って、家事や弟、妹らの面倒もみていた。母親は体調が良いときは家事もし、パートにも出られるようになるため、娘からすれば少しでも母親の負担を軽くすることが、ひいては自分たちのためにもなるとわかっていたのだ。
そんな母親に、自分が父親に何をされているか、長女が言えるはずもないことをこの父親は知っていたのだ。その上での行いであった。

まだ小学生だった長女は、その意味も理解できぬまま、父親の恐ろしさに負けてされるがままだった。時折、軽蔑のまなざしを父親に向ける以外、長女には抗うすべもなかったのだ。

※この記事は令和4年8月30日まで無料で公開されていたものです。条件に合致する方は無料でお楽しみいただけます。
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【有料部分目次】
家族のそれまで
次女
母親の後悔
長女と次女の決断
発覚から逮捕、そして裁判所の激怒
帰りを待つ母親