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迷走する一家
川村を捨てきれなかったA子さんは、自分たちの家がないということに気づく。
市営住宅を解約してしまっていたため、家族3人はとりあえず自動車に生活用品を積み込むと、各地を転々とした。川村には多額の借金まであり、手持ちの金だけが頼りだったが、行き先のあてなど全くなかった。
離婚を後押ししてくれた周りの人には顔向けできなかったし、川村の手前、A子さんがひとりで動き回ることもできなかった。
少なくても金があるうちはそれでもまだ良かった。
ラブホテルで寝泊まりし、それがダメなときは車内や公園にテントを張ったりもした。
だんだんと残金が乏しくなると、川村は窃盗をはたらいた。時にそれはひったくりにかわり、A子さんも手伝った。
川村がひとり歩きの女性や高齢者からバッグなどをひったり、逃げる。車で待機しているA子さんと落ち合って、逃走。
覚えているだけでも20回以上は行ったという。
この頃にはまた以前のような不安定な状態になっていた川村は、なにかにつけA子さんにきつく当たった。
パトカーや警察署の近くを通るたび、「お前は一回俺を警察に売ったから信用できない」などと因縁をつけ、A子さんに暴力を振るった。
経済的な困窮と、肉体、精神的な暴力を受け続けたA子さんは、これはもう川村ともども死ぬしかないと思い詰めるまでになっていた。
相変わらず覚せい剤をやめていなかった川村は、A子さんのその決意を知って落ち込んだという。
しかし、「一緒に死んでくれるなら死のう」と川村も同意した。
A子さんは地元の福岡では死にたくなかったので、誰にも知られない場所でひっそり死にたいと言うと、川村は唐突に「なら北海道」と言った。
北海道なら広いし、知り合いもいないから当分気づかれないというのがその理由だった。
そして一家は本当に室蘭行のフェリーに乗った。
現金は20万円ほどもっていたが、それらもどんどん減っていく。北海道に着いても、すぐに死ぬことはどちらともなく言いだしていなかった。
死ぬ決意は出来ていたはずなのに、数日間あてもなく北海道を彷徨った。
残金が数万円になったころ、川村は死ぬ予定であるにもかかわらず金が残り少ないことを心配し始めた。
「最期にカニでも食べてから死のう」
そうA子さんが言うと、途端に川村は逆上し、「死ぬ気もないくせに!!」とA子さんを殴りつけた。
結局、一家は生き延びた。
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