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電話
平成22年3月3日、奈良県中央児童こども家庭相談センターに一本の電話がかかってきた。
「これは虐待と言っていいと思う。昨日から風邪をひいて寝ているが、病院に連れて行った方がいいのだがどこへ連れて行ったらいいのかわからない。救急車を呼んだらいいと思うがどうしたらいいのかわからない」
電話の主は母親とみられる女性で、電話口ですでに泣いて取り乱した様子だった。合計3回の電話でのやりとりの後、児童相談所は電話の主が住んでいる桜井市に連絡。
桜井市の市職員2人が訪ねたその家は、単身者向けのワンルームマンション。ここであっているのかと思いつつもインターフォンを鳴らすと、母親らしき女性が応対、玄関ドアを開け、職員を中へと通した。
市職員は、センターからの申し送りとして「風邪をひいて寝ているらしい」「ぐったりしている」「母親に救急車を要請するよう伝えている」と言ったことは聞いていた。が、通された部屋の中で横たわっているのは、ただ風邪をひいてぐったりしている子供には見えなかった。
そこに横たわっていたのは、身長85センチ、全身が垢にまみれあばら骨と足の骨が浮き出たオムツ姿の5歳男児だった。
6.2キロの5歳児
市職員は母親がまだ救急車を要請していないことを知り、すぐさま119番通報、男児はまだかすかに息があった。
男児の容体は非常に悪く、体には複数の傷跡のほかに「褥瘡」が確認された。褥瘡は、寝たきりの高齢者などが体位を長く変えられずにいると起こることで知られるが、この男児もそんな状態だったのか……
ただ、市職員はこの時男児の妹らしき女児を保護していた。しかしその女児の健康状態には、特に問題があるようには見られなかったという。
両親と、幼い兄妹の4人が暮らすには明らかに狭いその部屋は、単身者用の1K。奥にロフトがあった。この部屋で、一体何が起きていて、この男児はなぜこんな状態になってしまったのか。
救急搬送された男児は、その後17時20分ころ、病院で死亡が確認された。
亡くなったのは、桜井市の吉田智樹ちゃん(当時5歳)。極端に痩せ細ったその体から、十分な食事を与えられていないことは明らかだった。体重は平均的な5歳児の三分の一の6.2キロしかなく、身長も1~2歳児並みの85センチしかなかった。死因は飢餓による急性心不全とみられたが、その後の司法解剖では脳の萎縮も確認された。
智樹ちゃんが搬送された後、母方の祖父が病院に駆けつけていたが、智樹ちゃんが死亡したことを受けて奈良県警は、智樹ちゃんの父親である吉田浩一(仮名/当時35歳)と、母親の真佐実(仮名/当時27歳)を、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕した。
調べに対し、智樹ちゃんは自力で歩くこともできず、食事も与えてはいたが食べようとしなかったという。
それにしても先にも述べたとおり、妹は特にその発育や養育状況に問題はなかったとされており、さほど年の変わらない兄と妹になぜここまでの差がついたのか。しかも、5歳児が餓死するということは相当な期間ネグレクト状態にあったと考えられ、その間、外部に一切虐待の事実が漏れ聞こえなかった点も疑問があった。
両親ともに実家があり、祖父母らも健在だったのだ。
逮捕後の取り調べで、両親はこう答えていた。
「智樹には、愛情がわかなかった」
そして、母親の真佐実はこうも話していた。
「母親が私でなければ、元気に育っていた。」 続きを読む 私が母でなかったら〜桜井市・5歳男児餓死事件〜