不可解な愛の流刑地~池田市・自衛官心中事件~

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平成18年8月15日

「主文。被告人を懲役6年6月に処する。」

この日、大阪地裁である事件の判決が言い渡された。
検察側の求刑は殺人罪での懲役15年だったが、言い渡された判決はそれを大幅に下回る、懲役6年6月というものだった。

判決を言い渡されたのは、元自衛官の藤田盛司(当時42歳)で、被害者は当時不倫関係にあったという同じ自衛官で元部下の女性だった。

事件概要

平成18年2月20日午前7時55分。
大阪府池田市住吉2丁目のラブホテル従業員から、宿泊客の様子がおかしいと110番通報が入った。
前日から宿泊していた3階の部屋にの客から、「連れの女性を殺したから警察を呼んでほしい」と言われたのだという。

通報を受けて池田署員が駆け付けたところ、312号室のベッドの上で若い女性があおむけに倒れていた。
傍らには、通報を頼んだと思われる中年男性の姿もあった。
ふたりとも手首に深くはないものの、切りつけたような痕があったという。

池田署は、現場の状況と男の供述から、この男が女性を殺害したとみて殺人の現行犯で逮捕した。

男は、横須賀市の陸自通信学校勤務の陸曹長、藤田盛司。殺害されたのは、兵庫県小野市の陸上自衛隊青野原駐屯地所属の陸士長、尾ケ井有美さん(当時22歳)だった。
尾ケ井さんは17日の夕方から20日の朝まで休暇届を出しており、来る3月の末には任期満了で除隊予定でもあった。

逮捕された藤田は、調べに対し、「不倫がばれ、二人で死のうと思った。陸士長が死にきれないようだったので、ネクタイで首を絞めて殺した」「殺してほしいと頼まれた」と話していた。
藤田は前年の8月まで、尾ケ井さんと同じ青野原駐屯地で勤務しており、二人の交際が発覚したことで横須賀へ「飛ばされて」いたのだという。
それでも別れきれなかったふたりは、この日とうとう、最悪の結末を選んでしまった。

報道では、藤田の供述もあってか、当初より心中という形で報道された。

しかし、検察は取り調べの結果、藤田を殺人罪で起訴したのだ。

ふたりのそれまで


藤田は高校を卒業したのち陸上自衛隊に入隊、平成15年から青野原駐屯地に所属。
既婚者であり、青野原駐屯のある小野市に隣接する加西市で、妻子とともに暮らしていた。

一方の尾ケ井さんは、小学生の頃に両親が離婚、以降、姉とともに母親に育てられた。
女性ながら陸上自衛隊に勤務していたことを考えても、親思いの実直な女性だったと思われる。
半面、他人に感情移入しやすく、優しさが時に仇となり、他人に流されたり、言いなりになってしまうという面も持っていたという。
平成14年に入隊、その年の6月から青野原駐屯地で勤務していた。

藤田と尾ケ井さんは、当初は上司と部下の関係でしかなかった。しかし平成6年の秋ごろから、不倫関係になっていく。この関係はすぐに周囲に発覚し、規律の面からもふたりは上司に別れるよう言われていたが、どうやら別れられなかったようだ。
二人の関係が終わっていないことが隊で明るみになり、今度は話が大きくなってしまった。
藤田は思い悩み、なんと自殺未遂を起こしてしまう。
それまでは、問題になったとはいえ自衛隊内部でとどまっていたふたりの不倫関係が、藤田の自殺未遂によって藤田の家族の知るところになってしまったという。

問題を重く見た自衛隊では、藤田を遠く離れた横須賀の通信学校へ移動させる。ただこの時、それまで一等陸曹だった藤田は、陸曹長へ昇進したうえでの、移動であった。

一方の尾ケ井さんも、青野原駐屯地で引き続き任務にあたってはいたが、上司から藤田と会わないように、と何度もくぎを刺されていた。
しかし二人は、周囲の目を盗んでは、お互いの勤務地近くで密かに不倫関係を続けていたのだった。

(残り文字数:7,283文字)

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痛々しい、愛~広島・実母無理心中事件~

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平成16年2月25日

冬の空に日差しが戻ったその日、1台の車が瀬戸内の橋を渡っていた。
昨日よりも5度ほど気温も高く、海風は冷たいながらも心地よいものだった。
助手席にいる母の横顔を、男はなんどもなんども確認した。
皺が刻まれた母の顔。女手ひとつで自分たちを育ててくれた、母。

どうしてこうなってしまったのか。

使われていないフェリー用の桟橋に車を乗り入れると、男はそのまま海へとアクセルを踏んだ。 続きを読む 痛々しい、愛~広島・実母無理心中事件~

孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件①~

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平成17年7月28日

夏の日差しが降り注いでいたこの日、その家に暮らす少年は父親にキャッチボールの練習をせがんだ。
消防士の父はこの日も出勤予定だったが、10歳になる息子とともに自宅前の道路に出た。
自宅前はT字路になっており、車の往来はそのT字路の奥にある2軒以外にはほとんどなかった。早朝ということもあり、父子はその道路でキャッチボールを始めた。

キャッチボールを始めてしばらくすると、奥の家から車が出てくるのが見えた。
ゆっくりと進んできたその車は、背を向けていた長男の背後3mほどまで近づいた時、突然スピードを上げ、そのまま長男を背後から撥ねた。
驚いた父親が駆け寄ると、車から運転していた中年の男が下りてきた。そして、父親に持っていた包丁を振り下ろしたのだ。

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孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件②~

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被害者叩き

事件直後の新聞各紙を見てみると、同じような見出しが躍っていた。
「長男はね父親刺殺 近所の男逮捕 飼い犬でトラブル?」読売新聞
「男児はね、父親刺殺 容疑で男逮捕、ペットのトラブル原因か」毎日新聞
「長男はね父親を刺殺 近所の男逮捕「飼い犬うるさい」」四国新聞
これ以外にも、全国紙の紙面には飼い犬をめぐる騒音トラブルがあったかのような記事が掲載され、この事件がご近所のマナーをめぐって起きた事件であるかのような印象がもたらされた。

中にはご丁寧に、石川家が飼っていたのは大型犬で、家の前を通るとしょっちゅう吠えていた、などといった「近隣住民」の声も掲載された。 続きを読む 孤独な妄想男と叩かれまくった被害者~島根・父子殺傷事件②~

やつあたり~高野山写真店主殺害事件①~

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平成19年8月15日

「判決は短すぎる印象。お墓には、残念な結果になった、と報告します……

老齢の男性は、新聞社の取材に対して呟くと、肩を落とした。
普通の裁判と違うことはわかっている。成人と少年では、与えられる罰が軽減されることもわかっている。
最初から、わかっていた。

それでもあまりに軽い。加害者が少年ならば、どんな苦しみ、無念の中で命を奪われようとも、その罪は軽くするのが正しいのか。

男性はいつまでも考えていた。

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