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タレコミ
「どうやら殺されて埋められているらしい」
平成15年9月に宮崎県警にもたらされたタレコミは、無視できないものだった。
殺されているとされたのは、県内でも大手の建設会社を営む一族の血縁男性で、事実、5年ほど前からその姿を見た人がいなかった。
いや、正しくは「家族以外」その男性の行方を知っている人がいなかったのだ。
家族によれば、すでに離婚した妻は子を連れて宮崎を出ており、それを追って男性もまた宮崎を出た、という話だった。
しかし男性が貸金を行っていたことや、暴力団との付き合いが取りざたされていたことなどから、県警では事件に巻き込まれた可能性を視野に捜査を開始、家族からも事情を聴いていた。
警察は男性が妻との離婚届を提出した日付が、すでに行方が分からなくなっていた時期であることに注目、筆跡鑑定の結果男性の署名が男性のものではないと判明。
平成17年2月、男性との離婚届を偽造した有印私文書偽造、同行使の容疑で男性の妻、男性の実母、そして知人の暴力団関係の男を逮捕、その後、宮崎市細江の山中の養鶏場跡地に男性を埋めたとする供述をもとに捜索したところ、ビニールシートにくるまれた遺体が出た。
DNA鑑定の結果、遺体は行方不明の当該男性であると確認された。
崩壊家族
殺害されていたのは宮崎市の境大介さん(当時31歳)。逮捕されたのはその妻の池本友里(仮名/当時35歳)、暴力団関係者の鳥井信之(仮名/当時39歳)、そして大介さんの母親・境喜枝(仮名/当時58歳)の3人。このほかに男一人の逮捕状も出ていた。
友里と鳥井は殺害も含めて全面的に認めていたというが、喜枝は離婚届偽装については認めたものの、それ以外は否定していた。
しかし大介さんが殺害された後に境家名義の口座から数千万円、大介さん名義の口座から数百万円を引き出していたこと、大介さん名義だった5階建て自宅マンションを喜枝名義に変えていたことなどから追及、その後息子殺害を認めた。
宮崎市内では知らない人がいないというほどの、家だった。過去には宮崎県知事が3000万円の賄賂を受け取ったと告発(のちに無罪確定)した人物の存在があり、先にも述べたように経営する建設会社は相当力のある会社だった。
その直系に当たる大介さんだったが、180センチ120キロの体格で、若いころから暴力がつきまとっていた。
同級生らに話によれば、確かに素行が悪かった部分もあったが、身近な人には優しい人だったという話もある。群れなければ何もできないというタイプではなく、また面倒見も良かったという。
友里とは平成7年に結婚、その年には父親が日向市内で交通事故で亡くなっている。
ただこの時点で母親の喜枝は離婚していて境家と無関係になっていたといい、当然ながら元夫の遺産は受け取れなかった。
その翌年、絶大な権力を持っていた祖父も死去。孫である大介さんには多額の財産が遺されたが、喜枝は無関係だった。
そういった関係があるからなのか、離婚しても喜枝は大介さんと同居し、境姓を名乗っていた。自身でも会社を経営していたようだが、ペットフードや輸入雑貨の販売を掲げたその会社に、その経営実態は全くなかったという。
身近な人に暴力は振るわない、と同級生らの印象としてはあったようだが、実際は大きく違っていた。
大介さんが10代のころから、喜枝はすさまじい暴力にさらされていたのだ。何度も自宅には救急車が来ていたし、そうでなくても喜枝は年中顔を腫らしていたという。
妻である友里にも暴力は及んだ。
「一日のうち、自由にできるのは30分くらい」
後の公判で友里はこう供述。さらには殴られて気を失うこともあり、両目が網膜剥離になっていたことも明かされた。
そんな大介さんは、祖父、父親が遺した財産も完全に独り占め状態だったという。そしてその金を元手に、鳥井ら暴力団関係者に金を貸していた。最後に逮捕された男も、債務者の一人だった。
巨額の財産を持つ息子と一円も自由にできない母親と妻。大介さんには覚せい剤の使用もあったといい、特に妻の友里が受けた暴力は「異常とも言える激しい暴力」と裁判所も認定した。
そんな二人と、鳥井ともう一人の男は次第に親密になっていった。
それぞれがそれぞれに大介さんに対して不満という言葉では到底表しきれないほどの感情を抱き、いつしかそれは大介さんさえいなくなれば、という考えに変わっていく。
もう、死んでもらうしかなかった。
【有料部分 目次】
被害者の落ち度
マスコミの大失態
あぶない刑事
キモいメール
恥知らず