懺悔滅罪~一関市・曹洞宗遠應寺強盗殺人事件~

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寺の朝

薄曇りの、どことなくスッキリしない6月のその日の朝、山間の禅寺に二人の僧侶がやってきた。
この日、奥州市の寺で営まれる落慶法要(寺院などの修繕が終わった後に営まれる法要)に出るために、この寺の住職を迎えにきていたのだ。

寺の庫裡につながる玄関の灯りがついている。朝なのに、消し忘れたか。
僧侶らは声をかけたが、中から家人の返事はなかった。
「ごめんください」
玄関の戸は鍵がかかっていなかった。二人はそっと中を覗いて声をかける。しんと静まりかえった庫裡の中は、朝の光が入ってはいるものの電気はついておらず、寺の朝、しかも出かける用事がある朝の雰囲気としては違和感があった。

二人の僧侶は胸騒ぎを覚えた。そういえばここの住職は、2日前の奥州市の寺通夜にも来る予定だったのに来なかった。電話しても、本人はおろか、同居している母親も出なかった……

寺の本堂とつながる廊下を進むと、引き戸で区切られた居間。そっとその引き戸を開けた僧侶らの目に飛び込んできたのは、血の海の中で倒れている住職と、その母親の姿だった。

母親は割烹着姿でうつ伏せ、後頭部には明らかにひどい損傷が見て取れた。住職は仰向けでTシャツ姿、その胸は血に染まり、血溜まりは頭部の方まで広がっていたという。
僧侶のうちの一人が110番通報しようと携帯電話を取り出したが、この山間の寺は電波が不安定でつながらなかったという。そこで、寺の電話を使おうとしたが、なぜか電話がどこにも見当たらなかった。

一刻を争うと判断した僧侶の一人が寺を飛び出し、近くの檀家に駆け込んでそこから通報した。
警察が駆けつけたが、どう見ても二人ともすでに死亡していた。 続きを読む 懺悔滅罪~一関市・曹洞宗遠應寺強盗殺人事件~

🔓イッシーの日記〜越谷・高校教諭監禁殺害事件〜

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「このメモが事件を解決する唯一の手がかりとなりました。息子がこれを書いていてくれて、本当に良かった……」

被害者の父親は、週刊誌の記者に対して絞り出すように話した。
息子が行方をくらましてすでに4ヶ月が経過していたが、警察の捜査の結果、静岡県の山中に埋められていたことが判明した。
発見された時、男性は両足が手錠に繋がれ、その体のほとんどは白骨化し、頭蓋骨には髪の毛すら残っていなかった。

事件自体は、金銭トラブルの解決のために被害届を出した男性を逆恨みした加害者グループが、犯行の発覚を恐れて男性を殺害して遺棄したというものだったが、実はこの事件は男性が失踪した直後から、いや正確にはその前から、ネットの世界で注目を集めていた。

被害男性はネット上に失踪直前まで「日記」をつづっていたのだ。それには事件をうかがわせる記述もあったことから、多くの人々が男性の安否を気遣っていたのだ。
公開捜査となってネット上の某掲示板には彼を心配するスレッドが立っており、そんな中での遺体発見だった。

出会い系サイトが乱立していたあの時代の特徴的とも言える事件だったが、それに加えて彼の遺した「日記」から見えるあまりの危機意識の薄さと事態の深刻さとかけ離れたその文面が色々な意味で注目されいまだに語られる事件である。

詳細は判決文も公開されており、多くの人がすでに知っているものではあるが、彼の日記と時系列とをリンクさせる形で振り返ってみたい。

【有料部分目次】
ある男性の失踪
嫌な予感
毟り取られる男
もう一人の女
夢見る男
事件前
悪い奴ら
それぞれの裏切り
静岡の山の中へ
「俺、殺されるかもしれない」
痛々しくも、憎めない人

 

🔓理解不能~ふたつの親子無理心中事件~

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新聞記事やニュースなどで日々、事件の報道がなされる。
死亡した人の数やその関係性などから注目を集める事件はその後の裁判の様子なども報道されるが、多くはその上っ面だけを舐めるだけで事件に至るまでの細部は報道されない。

特に、家庭の中で起きた事件については、被害者と加害者が血縁関係だったりすることで被害感情も複雑なものとなり、余計に詳細は表に出てくることが少ないと言える。時に、被害者側に一定の落ち度がある場合もあるからだ。
また、無理心中事件なども詳細はなかなか表に出ない。加害者も死亡しているケースだとそもそも裁判すら開かれないため、真相は闇の中となってしまう。

しかし私たちは知りたい、父が、母が、その心に刃を忍ばせるようになったのはなぜなのかを。そして、なぜ幼い子供を含め複数人数殺害しているのに、死刑どころか無期懲役も回避されるケースがこの無理心中においては多いのか。子の命はどこまで軽いのかを常々疑問に思う。

これは、解決策を講じることなく流されるままにその場しのぎの責任逃れをしてきた男と、思い通りにならないことをどうしても受け入れることが出来ずにきた女と家族の、それぞれの事件。いずれも、全く理解不能。

【有料部分 目次】
倶知安町の家
事件
はじまり
破産者、家を建てる
いわゆる一人旅
浮気、パチンコ、旅行三昧
まさかの退職、そして無職
残金5,600円
ズルい夫婦
そのかたち
結末
懲役26年
鹿児島の家
事件発生
家族のそれまで
泣いて拒む妻
心中未遂
ラーメンのおつり事件
精神鑑定
私だけが悪いんですか

火車~豊田町・一家無理心中事件外伝~

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弁護士事務所にて

平成267月、その弁護士は若い女性から相談を受けていた。
女性は母親を伴って訪れていたが、その相談内容は、母親についてのものだった。

「母が私のためにお金を払い続けています。もうやめさせてほしいんです」

女性によれば、自身の就職あっせんをしてくれている母親の友人に対し、母親が長年にわたって金銭を支払い続けているのだという。しかし女性の就職はいまだ実現しておらず、またその支払った金額が高額であることなどから、無意味なことをしているのではないか、という相談だった。

聞き取りを行った結果、その内容はにわかに信じることができないような異様なものだったが、その時は相談、という形で女性と母親は帰っていった。

年が明けた平成273月、再び女性と母親が相談に訪れた。内容は昨年の夏の相談とほぼ同じで、夏ごろには騙されているという認識の薄かった母親も、ここへきて親せきらからも騙されているという指摘を受けていた。
実際に夏に相談して以降、友人に対して金を払い込むのをやめていた。

ところが、312日になってその友人から、
「(就職あっせんを)やめるにしてもお金がかかる。今やめたらこれまで支払った分の1/5も戻ってこないし、戻ってきた金も損害賠償にあてられる」
という連絡がきたことで、改めて相談に訪れたとみられた。

相談を受けた弁護士の目にも、詐欺事件に巻き込まれていることは明らかだったようで継続して相談に乗る、そう方針立てた矢先、信じられない事件が起きた。

5月、豊田市太田町の民家で火の手が上がった。焼け跡からは一家3人の遺体が発見される。それは、あの相談に来ていた若い女性とその母親が暮らす家だったのだ。
さらに衝撃的な真実を知らされる。火災は失火ではなく、放火であり、かつ、火が出る前に祖母を含めた3人は殺害されていたというのだ。そして、殺害と放火で逮捕されたのは、あの相談に訪れたふたりの父親であり夫である男性だったのだ。 続きを読む 火車~豊田町・一家無理心中事件外伝~

🔓殲滅の焔~陸前高田・一家心中事件~

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一本の電話

平成18年6月27日、陸前高田市役所に電話があった。
匿名のその電話は女性で、「家庭内にトラブルがある。相談できないだろうか。」という内容だった。
市役所の職員は人権擁護委員を紹介し、実際にその委員が匿名の電話の主と面談。内容は違法性があるものだったようで、大船渡署に伝えられた。

「何かあったら連絡します。」

大船渡署から確認の電話を受けた相談者は、詳しい内容は話さずにそう言って電話を切った。大船渡署も現時点で相談者が介入を望んでいない以上やれるべきことがないと判断し、経過を見守ることで対応を終了した。

その2日後の6月29日未明。
陸前高田の住宅から火の手が上がった。

4人死亡の住宅火災

平成18年6月29日未明、陸前高田市気仙町の住宅から出火、約3時間後に鎮火したものの、木造平屋建ての住宅126平方メートルが全焼。
焼け跡からは3人の遺体が発見された。

火が出たのは、左官業を営む熊野正博さん(仮名/当時56歳)方。正博さんは仕事で関東にいたため難を逃れたが、この家には当時正博さんの妻・瑞穂さん(仮名/当時49歳)、長男・邦彦さん(仮名/当時26歳)、二男・友信さん(仮名/当時23歳)、三男・誠さん(仮名/当時19歳)、長女・泉さん(仮名/当時13歳)、正博さんの母親(当時84歳)の計6人がいた。

邦彦さんは逃げ出して軽いやけどで済み、年老いた正博さんの母親は別棟にいて無事だった。誠さんも救出されたが大やけどを負って意識不明となった。
邦彦さんは調べに対し、「家族間でトラブルがあって、みんなで死のうと、三男の誠が油をまいて火をつけた」と話していた。
搬送時に意識があった誠さんも、救急隊員の「火をつけたのか」という質問に対し、頷いていたという。

誠さんはその後、病院で死亡した。

焼け跡から発見された3人の遺体は、和室にあった。長男の話から、遺体は瑞穂さん、友信さん、泉さんの3人と見られ、その後断定された。

近隣の人らは衝撃を受けていた。3世代の大家族で、子供たちも両親も皆仲が良さそうに見えていたからだ。歳の離れた妹の泉さんも、学校では野球の試合のアナウンスを担当するなど充実した生活を送っていた。

ただ、気になる話はあるにはあった。

火を放ったとされる三男の誠さんは、高校を卒業後一旦は木材工場などで勤務していたというが、4ヶ月ほどで退職。その後は仕事を探してはいるようだったが、無職の状態だった。
無職であっても、庭の草刈りをしたり、特に何か問題を抱えているという様子はなかったと近所の人らは口を揃えた。
母親の瑞穂さんも、道で会えば明るく気さくに話をする人柄で、近所で孤立しているとか、夫婦仲が悪いと言った話もなかった。
市内の別の場所で暮らす実母を気遣い、よく世話をしに通っていたといい、その実母も家族仲が悪いという話はなかったと話した。
ただ、誠さんを含む子供たちの就職のことで悩んでいるといった話はあったようだ。

あの夜、一体何があったのか。

唯一助かった邦彦さんによれば、和室で家族会議をしていた際、誰からともなく「もう、死のう」という話になったのだという。
そして、三男の誠さんが灯油のポリタンクを持ち込み、灯油を自らかぶり床にも撒き散らした後、火を放ったのだと証言した。
火は瞬く間に和室に燃え広がり、誠さんと友信さんと瑞穂さん、そして泉さんを飲み込んだ。邦彦さんも当初は一緒に死ぬつもりだったというが、咄嗟に恐怖心で窓を割って外へ出て助かったのだ。

現場で遺体となって発見された友信さん、瑞穂さん、泉さんには目立った外傷はなかったが、それぞれの体からも灯油の成分が出ていたこと、邦彦さんの証言などから、警察では高齢の祖母と出稼ぎ中の父親を除く家族5人が一家心中を試みたとした。

しかしこの一家を心中に駆り立てたのは一体なんだったのか。

【有料部分 目次】
 玄関先の遺書
 長男の事情
 取り立て
 裁判
 焔の正体