ずるいヤツら~新生児殺しを誘発する人々①~

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まえがき

妊娠は、本来誰からも祝福されるものだ。新しい命が宿り、十月十日を一緒に過ごし、ともに親子へと成長するその過程は、母親となる女性にとっても素晴らしいことである「はず」。

しかしその妊娠が、自分の人生をより困難に、時にはぶち壊す存在にしか思えなかったとしたら。
その存在が、自分や今いる家族のなかでまったくの「不要」なのだとしたら。

虐待とは少し違う、最初から要らなかった、生まれてもらっては困る命をその手で葬る母親がいる。当然彼女らは責められ、社会的、法的に責任を取らされ、世間からは鬼母、異常者、馬鹿者と罵られる羽目になる。
ただそれまでの過程を見てみれば、母親が一貫して「いらない」と思っていたというわけでもないケースが多々見受けられる。むしろ、そう思えなかったが故の、というものもある。それはひとえに、新生児殺しが母親「以外」の要因があってこそ、起こるものであるからだ。

自身の命を懸けて出産したわが子を手にかけざるを得なかった母親たちの陰で、神妙な表情をしながら目を泳がせている人々の存在に焦点を当ててみたい。

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不可解な愛の流刑地~池田市・自衛官心中事件~

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平成18年8月15日

「主文。被告人を懲役6年6月に処する。」

この日、大阪地裁である事件の判決が言い渡された。
検察側の求刑は殺人罪での懲役15年だったが、言い渡された判決はそれを大幅に下回る、懲役6年6月というものだった。

判決を言い渡されたのは、元自衛官の藤田盛司(当時42歳)で、被害者は当時不倫関係にあったという同じ自衛官で元部下の女性だった。

事件概要

平成18年2月20日午前7時55分。
大阪府池田市住吉2丁目のラブホテル従業員から、宿泊客の様子がおかしいと110番通報が入った。
前日から宿泊していた3階の部屋にの客から、「連れの女性を殺したから警察を呼んでほしい」と言われたのだという。

通報を受けて池田署員が駆け付けたところ、312号室のベッドの上で若い女性があおむけに倒れていた。
傍らには、通報を頼んだと思われる中年男性の姿もあった。
ふたりとも手首に深くはないものの、切りつけたような痕があったという。

池田署は、現場の状況と男の供述から、この男が女性を殺害したとみて殺人の現行犯で逮捕した。

男は、横須賀市の陸自通信学校勤務の陸曹長、藤田盛司。殺害されたのは、兵庫県小野市の陸上自衛隊青野原駐屯地所属の陸士長、尾ケ井有美さん(当時22歳)だった。
尾ケ井さんは17日の夕方から20日の朝まで休暇届を出しており、来る3月の末には任期満了で除隊予定でもあった。

逮捕された藤田は、調べに対し、「不倫がばれ、二人で死のうと思った。陸士長が死にきれないようだったので、ネクタイで首を絞めて殺した」「殺してほしいと頼まれた」と話していた。
藤田は前年の8月まで、尾ケ井さんと同じ青野原駐屯地で勤務しており、二人の交際が発覚したことで横須賀へ「飛ばされて」いたのだという。
それでも別れきれなかったふたりは、この日とうとう、最悪の結末を選んでしまった。

報道では、藤田の供述もあってか、当初より心中という形で報道された。

しかし、検察は取り調べの結果、藤田を殺人罪で起訴したのだ。

ふたりのそれまで


藤田は高校を卒業したのち陸上自衛隊に入隊、平成15年から青野原駐屯地に所属。
既婚者であり、青野原駐屯のある小野市に隣接する加西市で、妻子とともに暮らしていた。

一方の尾ケ井さんは、小学生の頃に両親が離婚、以降、姉とともに母親に育てられた。
女性ながら陸上自衛隊に勤務していたことを考えても、親思いの実直な女性だったと思われる。
半面、他人に感情移入しやすく、優しさが時に仇となり、他人に流されたり、言いなりになってしまうという面も持っていたという。
平成14年に入隊、その年の6月から青野原駐屯地で勤務していた。

藤田と尾ケ井さんは、当初は上司と部下の関係でしかなかった。しかし平成6年の秋ごろから、不倫関係になっていく。この関係はすぐに周囲に発覚し、規律の面からもふたりは上司に別れるよう言われていたが、どうやら別れられなかったようだ。
二人の関係が終わっていないことが隊で明るみになり、今度は話が大きくなってしまった。
藤田は思い悩み、なんと自殺未遂を起こしてしまう。
それまでは、問題になったとはいえ自衛隊内部でとどまっていたふたりの不倫関係が、藤田の自殺未遂によって藤田の家族の知るところになってしまったという。

問題を重く見た自衛隊では、藤田を遠く離れた横須賀の通信学校へ移動させる。ただこの時、それまで一等陸曹だった藤田は、陸曹長へ昇進したうえでの、移動であった。

一方の尾ケ井さんも、青野原駐屯地で引き続き任務にあたってはいたが、上司から藤田と会わないように、と何度もくぎを刺されていた。
しかし二人は、周囲の目を盗んでは、お互いの勤務地近くで密かに不倫関係を続けていたのだった。

(残り文字数:7,283文字)

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嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件①~

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平成13年7月21日午後3時半

大分市横田の県道沿いの緑地帯駐車場で、タクシー運転手はいつものように休憩をとっていた。
ふと、同じ駐車場内に停めてある車に目をやった。
「そう言えばあの車、もう何日もここに停まっちょるけど……。」
そこは、県道22号線沿いに広がる緑地帯に設けられたスペースで、トラックやタクシーの運転手が時折休憩のために車を停めることはあっても、周辺には家も店もないため長期間車が停められているのは不自然だった。

気になった運転手が、乗用車の中を覗いたところ、人が乗っている気配はなかったが、女性の持ち物らしきハンカチやブラシが落ちていた。
気になりながらも引き返そうとした時、後部座席にあった粘着テープが目に入った。
ふっ、と、運転手の心がざわついた。運転手が見たのは粘着テープだけではなかった。車内には、無数のハエが飛んでいたのだ。 続きを読む 嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件①~

嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件②~

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13通の偽造手形

由香さんに対して、絶対に銀行に回ることはないから安心しろなどと言っていた冨田は、その手形を受け取ったその日のうちに、手形割引業者に裏書譲渡した。
由香さんが勤務していた会社は特に経営に問題がなかったため、割引業者らも冨田からの依頼であっても拒否する理由がなかった。
もちろん、ここで偽造されたものではないのか、という疑いを持たれれば拒否される可能性はあったが、この時点ではその疑いを持つ余地はなく、また、冨田の「嘘」を全員が見抜けなかった。
この時冨田が得た現金は、4625741円だった。 続きを読む 嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件②~

🔓嘘八百男に振り出し続けた愛の約束手形~臼杵市・交際女性殺害事件③~

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振り払った救いの手

経営者の妻らに知られたことで、本来ならば由香さんの苦悩はここで終わるはずだった。
理解ある経営者の妻と息子は、由香さんが騙されてやったことであり、現時点では会社に損害も出ていないことから、由香さんを今後監督していくことで不問に付した。
それはもちろん、由香さんが洗いざらい話してくれたと思ってのことであり、心労をかける必要はないとして由香さんの両親にも何も言わないことにしたのだ。

しかし、由香さんはすべてを話してはいなかった。

【有料部分目次】
5月末
愛の言葉と罵詈雑言
猿芝居
起訴
死人に口なし
心中を慫慂したか否か
悲壮な決意
破棄自判、懲役14年
果たされた思い

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