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ちょうど一年前のこの位の時期、私は気になる裁判があったために仕事の休みを取って松山地裁に連日傍聴に出かけていた。
松山市一番町の県庁、検察庁のならびにある松山地方裁判所。
通りの向かい側には三越や全日空ホテルなどがあり、大街道と呼ばれるアーケード街もすぐそこ。
裁判所の裏手には愛媛県指定有形文化財の萬翠荘が。ちなみに41号法廷には窓があって、カーテンを開けると萬翠荘が見える。重苦しい裁判の時、休廷時に窓が空けられると、路面電車の音なども聞こえてしばしの癒しになる。
裁判所自体は非常に古く、ロビーなども暗い。裁判員裁判などが開かれる4階は開廷前だと省エネなのか電気も消され窓もないため暗い。
なんにも知らずにエレベーターを降りたら一瞬、ホラー映画の世界に迷い込んだのかと思うレベルに暗い。
わかっている人は勝手に電気をつけて法廷前の長椅子に座って開廷を待つ。勝手に電気つけたらダメじゃん、とも思うけれどあのどんより暗い所にぼうっと人が座っていたら違う事件になそうなのでさっさと電気つけていいと思う、怒られたことないし。
今回は既に事件備忘録で記事にした夫に頼まれて殺害した妻の裁判、夫にインスリンぶっ刺した妻をメインに傍聴しようと思っていたが、月曜ということで新件がかなりあり、時間をやりくりしながら5件の裁判を傍聴できた。
傷害、過失運転致傷、危険運転致死傷、窃盗、常習累犯窃盗。
松山地裁のある1日の光景。
目次
危険運転致傷の男(50歳前後、現在無職)
車椅子のインスリン妻(59歳、障害者年金と生活保護受給)
下着泥棒の若者(20代)
危険運転致傷の男(50歳前後、現在無職)
既に初公判を終えていたようで事故の詳細は分からなかったが、まとめると
被告人は営業の仕事をしており、家庭は48歳の妻と高校生の子供との3人暮らし。妻はスーパーのパートとして家計を支えていた。
ある夜、自宅にいた妻の元に夫である被告人から電話。被告人は営業の仕事ということもあって夜仕事で飲み会や接待などが頻繁にあった様子。
「事故を起こしてしまった」
幸い、被害者は命に別状はなかったようだが、その時点で被告人は酒を飲んでいた。
呼気中から検出されたアルコールの量はなんと0.6。
通常、0.15mg以上で罰則の差はあれど酒気帯びとされる。0.5mg以上は酒酔い運転。それを超えた値だった。
この日、妻が証人として法廷にいた。
妻によると被告人はこれまでにも信号無視や酒気帯びなどの交通ルールを無視した運転をすることがあったという。物損事故を起こすこともあった。
事故を受け、逮捕された被告人の代わりに妻が被害者の対応をした。謝罪は当然として、被害者の車も相当な破損状態にあったようで、妻は退院後の被害者の移動手段として自分の車を提供している。
事故の時に被告人が乗っていたのは自分の車ではなかったそうだが、他者運転特約付きの保険に入っていた。慰謝としては事故後の8月に70万円、9月にも60万円を支払っており、今後も治療費が確定したらそれについても当然支払うつもりだ、と述べたが、この時点では保険会社が調査に入っているため保険金の支払いは受けられていないとのことだった。
「保険金が支払われなかったとしても、できる限り支払います」
妻は小さい声だったがはっきりと答えていた。
今後については、免許を再取得できたとしても運転については監督していく、と述べた。
松山市は完全な車社会であり、車がというか免許がない人間は就職も難しい。
「自転車に乗っていいのは子供と年寄りと女性だけ」
とはよく言ったもので、田舎では免許のない成人男性は不審者同様の目で見られることも実際にはある。
しかし最低でも3年は免許が取得できない状態であり、まだ高校生の子供がいる被告人が今後どのように家族を養うのか……
被告人は今回の逮捕を受け、懲戒免職処分を受けていた。
被告人の職業は営業職。なんと元の勤務先はカーディーラーだった。車に携わる仕事をしながら、しかも被告人には自動車保険募集人資格もあった。
そんな人が、日頃から交通ルールを無視し、挙句酒酔い運転……
証人として証言した妻は、一見しおらしいことを言っていたが実はこの妻も、被告人がかねてより酒を飲んだ状態で運転していることを知っていたのだ。
自宅には妻名義の妻が使う車があるという。夫名義の車もあったが、事故後に売却した。おそらく被害者への慰謝に充てる必要があったのだろう。
カギは肌身離さず妻が持ち、夫には絶対渡さないと言った。
もし、再取得後にルールを守れていないことが分かったら、その時は免許を返納させ妻自身も車を手放すと言っていた。
そんな妻の言葉を夫である被告人はどんな思いで聞いていただろう。
自分の裁判で、保釈もされているというのにジャージのようなカジュアルな服装で来ていた被告人。ロビーで見かけた時は傍聴人かと思った。いやええけどね。
父親のやったことを、17歳の子供はわかっているだろう。夫婦の間では許しあえたとしても、そうせざるを得なかったとしても子供はどうだろう。
進学の予定が狂う可能性もあるだろうし、進学を辞めるとまではいかずとも、その進学先の選択肢が狭まる可能性は高いだろう。
無職となり退職金も失い、慰謝料の支払いも当然残っている。再就職するにしても免許がなければ田舎では難しいし、そもそも免許がない時点で「ん?」と思われるのは間違いない。
なにより、酒に酔って車を運転していた父親のことを、子供はどう見ただろうか。
(判決は傍聴できず )
車椅子のインスリン妻(59歳、障害者年金と生活保護受給)
愛媛県警松山西署は10日、血糖値を抑えるインスリンを寝たきりの夫に投与し殺害しようとしたとして、殺人未遂の疑いで、松山市鉄砲町、無職、田村一美容疑者(59)を逮捕した。同署によると容疑者は糖尿病を患い、自身への処方分を投与していた。夫は翌日、救急搬送されて入院したが回復。その後、病死した。検視の結果、投与との因果関係はなかった。夫は持病で寝たきりだったという。
逮捕容疑は昨年10月3日午後6時ごろから同7時ごろまでの間、当時住んでいた同市清住の自宅で夫=当時(57)=にインスリンを注射し、低血糖発作を伴う重症低血糖症にさせたとしている。
病院から容疑者が「インスリンを注射して夫を殺そうとした」と話していると署に通報があった。同署が動機や詳しい経緯を調べる。 産経新聞社 2025/7/10
この事件は傍聴ライターである普通さんに教えていただいて傍聴することにした事件だった。
夫にインスリンをぶっ刺した妻……
といえば、千葉のインスリン妻を思い浮かべるが、この松山のインスリン妻は殺害目的などではなく、単に夫に金遣いが荒いことを理由に小遣いを貰えなかったことへの腹いせというか、そういう実に幼稚な動機によるものだった。
田村一美被告、年齢は59歳とのことだったが、車椅子だったこともあり60代半ばから後半くらいにも見えた。ただ、目がくりくりしていて「可愛いおばちゃん」風でもあった。
一美は高校卒業後にいくつか仕事はしていたようだが糖尿病を患っていたこともあって事件当時は生活保護を受けていた。
今回の被害者である夫との馴れ初めやいつ頃結婚したのか、子供の有無などは分からなかったが夫は40歳の時にヘルペス脳炎にかかり、後遺症として全身不随の状態にあった。が、日常会話や記憶などには問題はなかったようで、ヘルパーに頼りながらも夫婦で自宅で生活していた。
一方の一美も、糖尿病のためにインスリン注射をする身だった。
報道では夫婦の間に金銭トラブルがあった、生活費を夫がくれなかった、と言われていたが、だいたい察しはついていて、事実その読みは当たっていた。
一美が要求していたのはパチンコのための金だった。
これについてはヘルパーの証言もあった。
一美は普段から夫の世話をすることはなかったといい、週に2回はパチンコへ行く日々だったという。
当初、金銭管理は一美が行っていたが、夫に支給される障害者年金を使いまくるために話し合いの結果、今後はヘルパーが金銭管理を行うという状況になっていて一美は自由になる金がなかった。
事件当日、一美は夫にパチンコに行く金を要求。しかし夫はそれを拒否した。
一美の中では、「お金をくれないから何も買えない」という怒りの感情が膨れ上がったといい、体調が悪くなればいい、そんな気持ちで自身のインスリン調節ダイヤルを15~16単位にしてそれを夫に刺した。
その日はヘルパーが来る日だった。やってきたヘルパーはいつも通りに家事を行い、夫とも会話しておりその際は夫の様子に特に異常は見られなかった。
夕方18:30ころにも夫と会話したが、その時も特に変化はなかったという。
しかしその後、夜になって夫の容態が急変。大量の汗をかきはじめたため、来訪者(近所の人かヘルパーかは不明)に寄って119番通報がなされ、松山市民病院へ救急搬送となった。
夫の血糖値はその時点でなんと9mg/dL。医療関係者からは「見たことがない低血糖」と言われ、いつ死亡してもおかしくないレベルだった。
幸い夫は5日後に回復。容態も安定し、危機は脱したとみられていたが、元々の後遺症などもあってか別の病気が原因で死亡した。
警察は当初殺人未遂で一美を逮捕していたが、夫の死因が完全に別の病気に由来するものだったことや、一美自身殺害する気まではなかったことから傷害での起訴となった。
求刑は懲役3年。判決は懲役2年で執行猶予はつかなかった。
一美は先にも書いたが、「可愛らしいおばちゃん」という印象もあった。法廷に車椅子で入ってきた際も、辺りをキョロキョロ見回し、刑務官や弁護人に対して「ここでいいの?」などと話しかけていた。
それは素直で無垢な子供というか、その様子からは悪意など微塵も感じさせなかった。
しかしその女は、生活保護費や障害者年金をギャンブルに費やし、病床の夫を顧みることなく自由気ままにその日その日を生きているだけだった。
責任感や人としての良識、そういったものをなにも持ち合わせていない、だからこその「純真さ」みたいなものを感じさせる女だった。
刑務所でいじめられてないといいなーと思う反面、逆にうまいこと生き抜いてんのやろなと、泉ピン子主演「女子刑務所シリーズ」を見ながら考えた。
下着泥棒の若者(20代)
途中から傍聴し始めた裁判。
ボサボサ頭の若者がだらしなく被告人席に座っていた。
全く事件の詳細が分からなかったが、部分部分を繋げると、今治市内の外国人実習生らが暮らす寮?に侵入し、下着を盗んだというものらしい。
外国人実習生、とはいわれなかったが、若い女性3人組であること、被害者らが
「日本の犯罪を日本の法律で裁いてほしい」
と訴えていることから、おそらく外国人実習生だと思った。
被告人は20代前半。
結構珍しい漢字の名前だったので検索してみたら、愛媛県内の鉄工所らしき会社のカレンダーがヒットした。
そこには、新卒時期と思しき、被告人の初々しい笑顔……
被告人は通りすがりに可愛い被害者に目をつけ、自宅を特定。そして下着を盗んだのだが、なんとそこに現金を置いていたという。どういうこと??買いました、ってこと??
その辺がわからなかったが、お金を払うことで罪の意識を払拭させたかったのか。
相手が外国人実習生であれば、お金を置いておけば黙っているのではないかと踏んだのかな、などとも想像したがこの辺は傍聴できなかった。
閉廷後、私がエレベーターに乗ろうとすると、被告人と弁護人も乗ってきた。聞き耳を立てる私。
「職場見学の日、みたいですね」
この日、地元の中学生らが裁判所見学に訪れていた。
その中学生たちを見ながら、被告人が言った。
「僕らの時はスーパーとかやったと思いますね」
へぇ〜、と弁護人。2人ともにこやかに談笑。
未来に希望あふれる子供たちと同じだったはずの数年前に被告人。
数年後、自分が被告人席にいるなど思いもしなかったろうに。
「あのころのあなたは今のあなたを見て何と言うでしょうね」
と聞いてやりたかったがこらえた私、エラい。
次回、被害者を怒らせたどうしようもない男と、まさかの近所の人だった累犯窃盗をお送りします。